じしゃく忍法帳

第97回「リサイクルと磁石」の巻

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

磁気パワーでゴミを自動選別

農業革命を推進した中国生まれの唐箕(とうみ)

 風を利用する忍法を“風遁(ふうとん)の術”といいます。忍者はたえず風を意識して、敵と対するときは風上に立ちました。煙幕を張って逃げたりするには、風上側にいなければ効果がないからです。

 風をたくみに利用した伝統農具として、箕(み)と呼ばれものがあります。竹や木の皮などを編んで作った大きなチリトリのような形の農具です。脱穀したばかりの穀物は、ワラ屑やモミ殻などが混在しています。箕はこれらを選別するためのもの。穀物を箕に入れて空中高くあおり上げると、軽いワラ屑やモミ殻やなどは風に飛ばされ、重い穀物だけが箕の中に落ちてきます。これを何度も繰り返すことで、ワラ屑やモミ殻などを除去するのです。

 江戸時代には唐箕(とうみ)という便利な木製農機が普及しました。じょうご形をした受入口から穀物を投入しながら、手回し扇風機のようなもので風を送り、ワラ屑やモミ殻などを吹き飛ばす装置です。これなら風のない日でも、屋内でも作業ができます。 唐箕とは文字通り中国渡来の箕という意味。中国では紀元前2世紀の昔から使われていたことが、遺跡の出土品から明らかにされています。

 唐箕はオランダ船などを通じてヨーロッパにも伝えられました。ヨーロッパでは18世紀初頭まで、回転式の唐箕はもちろん、箕のような専用の農具もなく、脱穀した穀物はシャベルで放り上げたりして選別されていました。中国生まれの唐箕は、ヨーロッパの農業革命にも大きな役割を果たしたのです。

磁石の磁力と重力を利用した磁気分離機

 廃棄物の選別にも風力が利用されています。スチール缶やアルミ缶、ペットボトルなどは分別回収されていますが、家庭や工場から出される廃棄物には、金属や陶器、ガラス、ゴム、プラスチック類、紙などが混在しています。そこで、これらを細かく粉砕したのち、唐箕のように送風機で風を吹きつけて、軽い紙やプラスチック類などを選別するのです。

 廃棄物の中から鉄を選別するには、磁気分離装置とかマグネットセパレータなどと呼ばれる機械が使われます。これは永久磁石や電磁石を放射状に取り付けたドラムを回転させる装置。投入口から細かく粉砕した廃棄物を入れると、非磁性材はそのまま落下しますが、鉄などの磁性材は磁石の磁力によってドラム部分に吸着します。これをブラシなどで掃き落とすしくみです。磁石ドラムを回転させるだけで、連続的に自動選別してくれる便利な機械です。近年は電磁石にかわって強力な希土類磁石も採用されるようになりました。

 しかし、この方式では鉄は選別できるものの、磁石に吸着しないアルミや銅、亜鉛などの金属は、他の廃棄物と混在したままです。そこで考案されたのが渦電流選別機と呼ばれる装置です。

 変動する磁界中に置かれた金属導体には、電磁誘導によって渦状の電流が発生します。これを渦電流といいます。同じことですが、磁石の磁界の中を金属導体が移動しても渦電流が発生します。渦電流が発生する磁界は、運動する金属導体には制動力として働きます。そこで、鉄道の電磁ブレーキなどにも応用されています。


図1 磁気分離機(マグネットセパレータ)の構造

鉄とアルミを自動選別する渦電流選別機

 アルミ、銅、亜鉛などの非磁性金属が重力によって落下する途中に、磁石の磁界を通過すると内部に渦電流が生じます。渦電流が発生する磁界は、磁石の磁界と反発作用を起こすので、非磁性金属は磁石から遠ざかろうとします。これを利用したのが渦電流選別機です。

 渦電流選別機は磁性体である鉄はもちろん、銅、アルミ、亜鉛などの非磁性金属、そして電気的導体ではないプラスチックやゴムを、連続的かつ効率よく自動選別できるのが大きな特長となっています。

 磁石を組み込んだ回転ドラムを使うしくみは磁気分離機と同じです。廃棄物中の鉄はドラム部分にさしかると磁石に吸着したまま移動し、磁石に吸いつかないプラスチックやゴムなどは、重力によって垂直に落下します。ところが、銅、アルミ、亜鉛などの非磁性の金属が落下するときは、磁石の磁界が作用して渦電流が発生し、水平方向に反発力が働きます。反発力を高めるため、磁石の磁極は交互に配置され、ドラムは高速回転されます。こうして生まれた大きな反発力により、銅、アルミ、亜鉛などの非磁性金属の落下方向は、はじかれるように垂直方向からずれ、鉄、プラスチックやゴムなどと選別することができるのです。

 渦電流の反発力は非磁性金属の種類によって決まるので、落下位置もそれぞれ微妙に異なります。そこで、強力な磁石を利用すると、銅、アルミ、亜鉛などの非磁性金属を、種類ごとに選別することもできるため、超電導磁石の応用も研究されています。


図2  渦電流選別機の原理と構造

フェライト製造技術を応用した廃液処理

 廃液処理には通常の磁気分離機や渦電流選別機は使えません。そこで、高勾配磁気分離装置と呼ばれるものが利用されています。これは円筒状電磁石の内部に廃液の流路を設け、そこに磁気フィルタを挿入した装置です。廃液に凝集剤と鉄粉などを混ぜて磁性凝集体を生成させ、これを電磁石の磁力で引き寄せて磁気フィルタで分離するというのが基本原理。分離した磁性凝集体は脱水され、鉄粉を回収してから2次処理されます。強力な超電導磁石により、湖沼のアオコ(異常繁殖した緑色の藻類)を除去する研究も進められています。

 工場や研究所などから出される廃液などには、環境を汚染するさまざまな重金属イオンが含まれています。こうした重金属イオンの処理にはフェライトの製造技術も利用されています。廃液に硫酸第一鉄を加えてアルカリで中和し、空気を送り込みながら加熱すると、重金属イオンを取り込んだフェライトの微結晶が生成します。フェライトは2価と 3価の鉄イオンと酸素イオンの複酸化物で、鉄イオンはさまざまな金属イオンと置換する特異な性質があるからです。重金属イオンと置換したフェライトは化学的に安定で毒性もなく、磁性体であるため磁石によって容易に分離することができるのです。

 これはフェライト化処理法と呼ばれ、浄化処理された排水は工業用水として、また副産物として生成したフェライトは、電波吸収材などにも利用されています。もともとフェライト化処理法は、高周波用フェライトを製造するための水溶液中の化学反応を廃液処理に応用したもの。環境対策とリサイクルを同時実現した一石二鳥の技術です。

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