じしゃく忍法帳

第94回「磁気記録の技術史」の巻

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

ユビキタス時代の情報ストレージ

漢字文化圏のワープロもさまざま

 伊賀の忍者は“しのびいろは”という秘密文字を用いました。漢字のヘン7種と、ツクリの7種を組み合わせ、いろは文字と対応させた一種の暗号です。たとえば、木ヘンに色は“い”、火ヘンに色は“ろ”、土ヘンに色は“は”を表わすといったしくみです。2バイトの数字(あるいはアルファベット)の組み合わせで漢字を表わすJIS漢字コードや句点コードと似ています。

 漢字の母国・中国でも1980年代から、ワープロが使われるようになりました。中国語ワープロの入力方法は、発音によるものと字形によるものに大別されますが、地方によって漢字の発音が違ったり、簡体字や繁体字などもあって、なかなか大変です。電報局のオペレータは漢字のそれぞれに付けられたコードを丸暗記しているそうです。まるで忍法のような記憶力です。

 中国語ワープロにおいて、慣れると便利なのは、“五筆字型法”と呼ばれる入力方式。おのおのの漢字の最初の筆画を、“横・縦・左払い・右払い(点)・折れ”の5種類に分類するもの。部首索引から目的の漢字を探し当てる漢和辞典の方式よりも簡便な方法です。  

 繁体字が使われている台湾では、漢字をいくつの字根の組み合わせとみなす入力方式も使われています。それぞれの字根に割り当てられたキーを入力すると、その漢字が呼び出せるという方式です。漢字文化圏のワープロもさまざまな入力方式があるのです。


 

ビーズ編みのようなユニークなコアメモリ

 初の日本語ワープロ(東芝製)が発売されたのは1978年。漢字とカナが混じり、同音異義語も多いという日本語特有の困難を克服し、文節入力カナ漢字変換という方式により実現しました。このワープロは事務机サイズで、価格は630万円もしましたが、ハードディスクの容量はわずか10MB(メガバイト)。現在の3.5インチ2HDフロッピーディスクの約8枚分しかありませんでした。

 もともとハードディスクはコンピュータの外部記憶装置として、磁気テープ技術をディスクに応用したもの。1956年にIBMが開発した世界初のハードディスクは、24インチのディスクを50枚スタックした記憶容量5MBのものでした。

 今日のコンピュータは高速アクセスが可能な半導体メモリの主記憶装置(メインメモリ)と、ハードディスクやMO、CD-R/RW、フロッピーディスクといった外部記憶装置(外部メモリ)からなります。このスタイルに落ち着くまで、コンピュータのメモリはめまぐるしい変遷をたどってきました。RAMといえば、今日では半導体を利用したメモリを意味しますが、IC技術が確立するまで、さまざまな磁気記録方式のメモリが模索されたのです。

 1950〜60年代のコンピュータのメインメモリの主流となっていたのはコアメモリです。これは直径が数mm〜1mm以下のフェライト製のトロイダルコアに細い電線を通し、これをマトリックス状に編んで記憶平面としたもの。電線に流れる電流の向きによって、コアには左回りまたは右回りに磁化されるので、これを“1”と“0”の2値情報として記録し、磁化方向はセンス線(探査線)と呼ばれる電線によって読み取る方式です。

ユニークな国産パラメトロン計算機

 1960年代になるとコアメモリとともにワイヤメモリが、コンピュータのメインメモリに使われるようになりました。ワイヤメモリは各種考案されましたが、最も代表的なのは織成式と呼ばれる方式。非磁性体の下地導線(銅線など)に磁性体の薄膜をメッキあるいは蒸着させたワイヤを平行に並べ、これを語線と呼ばれる絶縁電線でスダレのように編んだもの。

 コアメモリやワイヤメモリは、1950年代に開発された日本のパラメトロン計算機のメインメモリとしても使われました。パラメトロンというのは、2つのフェライトコアを用いたLC回路を論理素子としたもの。真空管やトランジスタを使わない日本独自のコンピュータ技術でした。

 1960年代になるとICメモリのコンピュータも開発されましたが、当時の半導体技術は未成熟で、1970年代になってもなおコアメモリやワイヤメモリ、磁気バブルメモリがICメモリと競合していました。磁気バブルとは単結晶の上に磁性薄膜を形成し、その膜面に垂直に磁界を加えたときに生じる小さな円筒状の磁区のこと。磁性薄膜にパーマロイの薄片を蒸着し、回転磁界を加えると、バブル磁区を転送することができます。そこで、バブルの有無を“1”と“0”の2値情報とすることでメモリとして利用しようというのが磁気バブルメモリ装置です。磁気バブルメモリは高速アクセスや書き換えが可能で、しかも電源を切っても消えない不揮発性が特長。1970年代には電話の電子交換機のファイル記録用、銀行端末などにさかんに使われました。
 

図1 コアメモリ(3D4W式)のしくみ

予測をはるかに超えたハードディスクの高密度記録

 1980年代は半導体技術が飛ぶ鳥を落とす勢いで発展した時代です。半導体メモリの価格ダウンにより、コアメモリやワイヤメモリ、磁気バブルメモリといった磁気記憶装置は、次々とコンピュータ市場から姿を消していきました。1980年代はまた半導体レーザの利用が本格化した時代でもあり、磁気記録は21世紀にはすべて光記録にとってかわられるといわれたこともありました。

 ところが1990年代にハードディスクは予測を覆す大発展を遂げました。磁性材料と磁気ヘッドの連携的な技術進歩により、驚異の高密度記録を達成していったからです。

 数年後には1枚あたり160GB(ギガバイト)のハードディスクが登場するといわれ、TB(テラバイト)時代も目前に迫っています。

 HDD(ハードディスクドライブ)の弱点は衝撃に弱いこと。回転するディスク面に磁気ヘッドが接触すると、読み書き不能になってしまうのです。この問題を解決したのがTDKの耐衝撃機構HDD用ヘッド。1000Gの衝撃にも耐えるTDKの新機構の採用により、これからは携帯電話やPDAなどのモバイル機器にもHDDが搭載されるようになるでしょう。

 HDDの駆動モータには強力な希土類磁石も応用され、小型化に大きく貢献しています。だれもが、どこでも、いつでもコンピュータを利用するようになるという“ユビキタス社会”に向けて、磁性材料と磁石はますます活躍しそうです。

 


図2 ワイヤメモリと磁気バブルメモリのしくみ

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