じしゃく忍法帳

第48回「録音機と磁石」の巻

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

光ディスク時代にも磁石は必要

柿渋で染めた忍者服の意外な用途とは?

忍者服といえば黒色というのが定番ですが、中世〜近世の忍者は柿渋(かきしぶ) で染めた暗褐色の忍者服も着用しました。

柿渋とはシブ柿を臼でつき、樽の中で発酵させたものの搾り汁のこと。紙や布を染 めたり、家具・調度の下塗り材に用いるなど、かつては広く使われた染料です。柿渋 に含まれるシブオールには防腐性、タンニンには収れん性(粘膜収縮作用)などがあ るので、忍者は飲み水に困ったときは、溜まり水や汚水を忍者服でろ過して飲用した といわれます。若干の殺菌作用も期待できたのでしょう。

柿渋は媒染(ばいせん)染料の一種です。柿渋の染着力は他の植物色素と同様に、 それほど強いものではなく、ただ染めただけでは水に洗い流されてしまいます。しか し、金属塩(ミョウバンなど)液で布地を処理してから染料に浸けると、染め上がり の色も濃くなり、また染料が水に溶け出すこともなくなります。

これは繊維に結びついた金属塩が染料と金属錯塩(さくえん)を形成するからです 。このように繊維と染料の仲立ちをして、双方をがっちりと結合させる役目をするも のを媒染剤といいます。

泥などといっしょになって染み込んだ草花の汁は、すぐに水洗いすれば落ちますが 、放置するとシミとなって残ります。これは泥に含まれる金属塩が媒染剤となって、 繊維を染色してしまうからです。

録音可能なCD−Rに生かされた染料技術

一度だけ情報の記録が可能なCD−Rは再生専用のCDを発展させた光ディスクで す。このCD−Rの記録膜にも、有機色素が使われます。

有機色素をコーティングした記録膜にレーザ光をスポット的に照射すると、その部 分だけが熱分解して光の屈折率や吸収率が変わるので、これを利用してデジタル信号を記録し ます。しかし、通常の有機色素は太陽の紫外線によって分解されやすいのが難点。色 があせるということは、CD−Rにおいては大事な情報が消え去ることを意味するの で、耐光性にすぐれた色素が必要となります。

CD−Rの記録膜用としては、シアニン系、フタロシアニン系、インドアニリン系 など、さまざまな有機色素が利用されますが、TDKでは高度な有機色素設計技術に より、オリジナルのシアニン系色素を開発。さらにクエンチャ(光安定化剤)として の金属錯体イオンを導入することで、きわめて耐光性にすぐれた記録膜を実現しまし た。

CD−RやMD、DVDなど、近年、記録メディアはテープからディスクへ、また 記録方式も従来の磁気記録から光磁気記録、そして光記録へと移行しつつあります。

磁気記録のルーツである初の磁気録音機は、1898年、デンマークの電気技師ポール センによって発明されました。これは図1のようにドラムに巻いた鋼線を記録媒体と するものです。ドラムの回転にともない、鋼線をくわえた磁気ヘッドが、信号に応じ て鋼線を磁化して音声を記録するという方式です。

この磁気録音機は1900年のパリ万博に出品され好評を博したため、ポールセンは磁 気録音機の事業化に乗り出しました。しかし、当時は機械式蓄音機の発展期で、円盤 型のレコードも発明されたこともあり、ポールセンの設立した会社は閉鎖の憂き目に あいました。周辺技術が未確立で、実用化には早すぎたのです。このため、磁気記録 は一時的に忘れ去られてしまいました。
 

ポールセンの鋼線式磁気録音機
図1 ポールセンの鋼線式磁気録音機

磁気ヘッドと磁性体は磁気録音の2大要素

ポールセンの磁気録音が復活するのは1930年前後のドイツにおいて、磁気テープ( 当時は紙製テープ)とリング型の磁気ヘッドが開発されてからのことです。円盤型の レコード(当時は毎分78回転のSPレコード)の録音時間は4〜5分でしたが、磁気 テープによって、長時間の連続録音が初めて可能になったのです。第二次世界大戦後 にはプラスチックテープが開発され、テープレコーダの全盛時代が到来しました。

磁気ヘッドの改良とともに、磁気記録の発展に大きく貢献したのは磁性体技術です 。たとえば磁気テープには、針状の磁性粉(ガンマ酸化鉄など)が、図2のようにテ ープの走行方向にぎっしりと塗布されています。磁気ヘッドはこの磁性粉を磁化する ことで情報が記録されます。

磁気ディスクと光ディスクの双方の特徴をあわせもつのがMDです。MDの記録媒 体はアモルファス磁性膜が用いられ、記録は磁気ヘッド、再生は光ピックアップによ る方式を採用しています。

磁気ヘッドによる磁気記録とはいえ、その原理は磁気テープや磁気ディスクとはか なり異なります。

磁性体には、ある温度以上になると、磁界を加えても磁化されなくなる性質があり 、その温度をキュリー温度といいます。MDの記録膜のキュリー温度は180℃で、レ ーザ光をスポット的に照射すると、その部分はキュリー温度を超えて熱せられ、磁化 されなくなります(磁化されていたものは消去されます)。この状態において磁気ヘ ッドにより磁界を加えながら、レーザスポットを移動させると、熱せられていた部分 はキュリー温度以下に急冷され、磁性体は磁化され情報が記録されます。

つまり、レーザ光による記録膜の加熱・急冷と連携をとりながら、磁気ヘッドが信 号磁界を加えて記録するのがMDの光磁気記録方式です。膜面に垂直方向に、しかも レーザ光により微小スポットで磁気記録されるので、高密度な記録が可能になります。
 

オーディオ用テープの記録方式

図2 オーディオ用テープの記録方式

DVD−RAMは結晶の相変化を利用

MDの再生にもレーザ光が使われます(ただし、記録膜をキュリー温度以上に上昇させないような強さのもの)。これは光の偏光面(振動方向)が磁界によって回転させられる磁気的カー効果と呼ばれる磁気光学現象を応用したものです。レーザ光を照射した記録膜の磁化部分が、S極かN極かによって反射光の偏光面の傾きが異なるので、それを光ピックアップによって、明暗の変化つまりデジタル信号として読み取るのです。

従来の磁気ディスクにかわり、21世紀においてはDVDをはじめとする光ディスク が主流になると予測されています。MDはその橋渡し役となる重要なメディアであり 、また、ふだんはあまり縁のない磁気光学現象を知るうえでも最適の教材です。

何度でも消去・記録が可能なDVD−RAMには相変化方式が採用されています。 相変化とは物質がある相から別の相へと変化する現象のことをいい、DVD−RAM においては、記録膜の結晶状態とアモルファス(非晶質)状態の相変化が利用されます。

DVD−RAMのように、記録も再生もレーザ光を利用する光ディスク装置におい て、磁気ヘッドは不要となります。しかし、ディスクの駆動機構などに磁石は欠かせ ません。おそらくエレクトロニクス技術がこの先どのように進歩を遂げようと、磁石 が不要になることはないでしょう。なぜなら電磁気作用は物質の根本現象だからです。
 

MOとMDの記録方式
図3 MOとMDの記録方式

PAGE TOP