テクの雑学

第185回 化石燃料活用には欠かせない、CCS技術

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

石炭や石油といった化石燃料の利用を考える時に、必ず問題になるのが、排出されるCO2です。地球温暖化の原因とされるCO2をそのまま大気中に排出しないための技術が、CCS(Carbon dioxide Capture & Storage:CO2分離回収)技術です。前々回取り上げた、「最新の石炭火力発電の技術、IGCC」についてご一読いただいてからなら、もっと理解しやすい内容となっています。
 

【 参考情報 】

■第183回 進化する石炭火力発電 〜環境にやさしいIGCC、IGFC〜

化石燃料とCO2の収支

石炭、石油、天然ガスなどは、化石燃料と呼ばれます。昔生きていた植物やプランクトンなどの生物の死骸が堆積し、地中で加熱・加圧されることで形成されたものだというのが定説となっているからです。海中の植物性プランクトンとそれを食べる動物性プランクトンの死骸から石油が、陸上の樹木などの植物の死骸から石炭ができたとされています。

 植物は光合成によって、大気中のCO2を取り込んで酸素を放出します。その植物を食べる動物は、植物の中に取り込まれたCO2の一部を材料にしてからだを形づくっています。生命活動とは、ある意味、CO2を体内に取り込み定着させる活動であるとも言えます。言い換えると、化石燃料とは、生命活動によって生き物が体内に取り込んだCO2を、長い年月をかけて地中に封じ込めたものであるともいえます。

 石炭や石油を燃料として使うということは、長い間かけて地中に封じたCO2を大気中に解放するということでもあります。人間が植えた木を燃料として燃やしたり、植物からとった油を燃やすバイオマス燃料などは、人間が植え、直近まで生きてCO2を体内に取り込んでいた植物が材料になるので、CO2の収支バランスに影響を与えることはありませんが、化石燃料は大量に使うとCO2の収支バランスが崩れてしまいます。地球環境を維持しながら化石燃料を使うためには、CO2は回収して大気中に放出しないようにしなくてはいけません。

■ CO2を分離する技術

 そうはいっても、化石燃料を利用するとき、CO2はそれだけで単体で排出されるわけではなく、他の成分と混ざった混合ガスの形で排出されます。CO2を回収するためには、まず、排出されるガスから、CO2を分離する必要があります。

 排出される気体からCO2を分離する技術には、大きく3つの方法があります。1つ目は、液体や固体にCO2を吸着・吸収させる方法、2つ目は、CO2だけを通す「膜」を通すことで気体を分離する方法、そして3つ目は、ガスの種類による沸点の違いを利用してCO2だけを蒸留して取り出す方法です。

【吸収・吸着】

 この方法は、CO2を吸い付ける物質の種類と吸い付ける方法によって、いくつかに分類することができます。代表的なものは、化学反応を利用して吸収液にCO2を吸収させる「化学吸収法」、高圧下で吸収液にCO2を吸収させる「物理吸収法」、ゼオライトや活性炭などの多孔質の吸着剤を使って、高圧下でCO2を吸着する「吸着法」があります。

 すべてに共通なのは、ある条件下で吸収・吸着剤にCO2を固定してガスから分離した後、別の場所で熱を加えたり圧力を下げたりして、CO2を吸収・吸着剤から分離して回収することです。吸収・吸着剤は回収し、再利用します。

 化学吸収法で使われる吸収剤は、アミン等のアルカリ性水溶液(吸収液)です。吸収塔で、吸収液にCO2を含むガスとを接触させると、化学反応によってCO2だけが吸収液に吸収されます。その後、吸収液を再生塔に送り、加熱することで、再び化学反応を起こし、高純度のCO2を分離・回収します。CO2回収後の吸収液は再利用します。常圧のガスから大量のCO2を分離・回収するのに適した技術で、微粉炭火力発電、GTCC(Gas Turbine Combined Cycle:ガスタービン複合サイクル発電)などで使われています。

 




 対して、物理吸収法は、高圧のガスからCO2を回収するのに適した手法です。高圧・低温下で、メタノールやポリエチレングリコールなどにCO2を物理的に吸収させ、その後減圧してCO2を放散させます。IGCC(Integrated coal Gasification Combined Cycle:石炭ガス化複合発電)のような高温・高圧の石炭ガスからCO2を分離する場合に適しています。吸着法も、物理吸収法と同じく、高圧ガスからのCO2回収が低コストで可能なことが期待されており、吸着剤の研究がされています。

【膜分離】

 原理は、多孔質の高分子膜にガスを通したときに、気体ごとに通りやすさが違うことを利用して、気体を分離します。CO2よりも大きな分子だけを遮るのは、分離膜の孔の大きさを調整することで可能ですが、現在の課題は、「CO2よりも小さな分子も通さず、CO2だけを通す分離膜」の開発です。これまでは、水素のようにCO2よりも小さい分子のガスを、CO2と分離することは困難でした。

 現在進められているのは、CO2と親和性が高いデンドリマー(ポリマー)を使い、CO2分子を分離膜に取り込むことでCO2だけを通し、他の分子を通さない「CO2ゲート分子機構」による分離膜の研究です。実現すれば、吸収法に比べて簡単な構造のプラントで、低コストでのCO2回収が可能になると期待されています。



【深冷分離】

 気体の種類による沸点の違いを利用して、CO2だけを分離する方法です。化石燃料の燃焼時に空気ではなく酸素を使う「酸素燃焼」の場合は、排気中のCO2濃度が高くなるので、この方法で効果的にCO2を除去できます。

■ 分離したCO2をどうするか

 分離したCO2は、大気から隔離しておかなくてはいけません。隔離の方法は、地中隔離法と海中隔離法の2つに大きく分けられ、それぞれ研究が進められています。

 地中隔離法の基本は、「CO2を高圧で、上部に水やガスを通さない層(シール層)がある地層を選んで注入する」ことです。埋めた場所にある物質とCO2の作用によって、さまざまな現象が起ります。中には、新たなエネルギーの産出に利用できるような方法もあります。

炭素固定
石炭層にCO2を注入することで、石炭に吸着しているメタン(コールベットメタン)とCO2が置換され、メタンが発生します。この性質を利用して、石炭層からメタンを回収できます。石炭としてそのまま燃料にするためには適さない、低品質の石炭もエネルギー源として活用できる方法として期待されています。
 

帯水層貯留
地中の帯水層(地下水を多く含む砂岩層)にCO2を注入する方法です。CO2は地下水に溶解し、一部は鉱物化して固定されます。日本では、公益財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE)などにより、新潟県の長岡で実証実験が行われています。
 

油層・ガス層貯留
地中の油層やガス層にCO2を封入します。採掘が行われている油層やガス層に封入して、層内の圧力を高め、石油やガスの産出量を増加させるEOR(Enhanced Oil Recovery:石油増進回収法)に利用できます。また、すでに採掘が終了した油層やガス層に封入し、そのまま密閉する手法もあります。
 

海底下ハイドレート貯留
海底下の孔隙率の高い砂層で、CO2を水の中に閉じ込めて(ガスハイドレート化して)貯留する手法です。ハイドレートとは、水分子で形成された格子(かごのようなもの)の中に、物質の分子が入り込んだ構造です。CO2のガスハイドレート化が可能な温度・圧力は、10℃以下、4.5メガパスカル(45気圧)以上の環境という、常温・高圧環境下となります。
 

ゲスト分子置換法
水の格子中にメタンが取り込まれた「メタンハイドレート」に対して、CO2を注入することでメタンとCO2を置換し、メタンを取り出す方法です。
 

メタンへの変換
バクテリアの中には、CO2を取り込み、メタンを放出する性質を持つものがあります。このようなバクテリアを利用し、CO2を地層に封入し、バクテリアの作用でメタンにして貯留する手法です。技術的には研究段階にあります。

 海洋隔離法では、比較的浅い海にCO2を注入することで、溶かして希釈する方法(溶解法)と、深海底のくぼみなどに液体として注入し、隔離する方法(貯留法)があります。いずれの方法も、安定して貯留できるかどうかは、CO2を含む海水の動きによるので、研究が進められています。

 地球温暖化対策として、CO2排出のない再生可能エネルギーの利用研究が進められていますが、人類が必要とするエネルギーを安定してまかなうためには、まだ当面は、化石燃料に頼る必要があります。地球環境にできるだけ負担をかけない、持続的な経済発展のために、CCSはカギとなる技術なのです。


著者プロフィール:板垣朝子(イタガキアサコ)
1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける
著書/共著書
「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム)
「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など

 

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