テクの雑学

第176回 ますます注目高まる再生可能エネルギー 〜地方によってデザインが異なる風力発電についてみてみよう〜

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

再生可能エネルギーとして風力発電に注目が集まっています。エネルギーの「ベストミックス」の観点からも、風力発電を有効活用することには大きな意義があります。今回は、そんな風力発電装置の「構造」と、効率を高めるために用いられている技術についてまとめてみたいと思います。

 なお、風力発電機については以前にテクマグ内の他のコーナーで取り上げているので、そちらもご参考ください。
 

【 参考情報 】

■電気と磁気の?(はてな)館 > No.40 強力マグネットによる風力発電の高効率化

 

さまざまな風車のタイプ

風力発電の仕組み自体は、いたって簡単なものです。風の運動エネルギーを利用して「風車」を回し、その力で発電機を作動させて電力を得ます。風車は、水車と並んで人類が古くから自然界のエネルギーを利用するために利用してきた機械機構で、製粉や穀物の粉砕、また有名なオランダの風車のように灌漑(かんがい)といった用途に用いられてきました。電気が利用されるようになり、また「フレミングの左手の法則(第163回 電池切れでも安心! 〜手回し式発電機の原理〜)参照」を利用した発電機が考案されると、風車によって電力を得る仕組みが考案されたのは、ごく自然な流れと言えるでしょう。

 風力発電に使われる風車にはさまざまなタイプがあります。まず、風車そのものは「抗力型」と「揚力型」に大別され、さらにロータ(風車の回転する部分)を支持する軸を地面に対して垂直に置く「垂直軸型」と、地面に平行に置く「水平軸型」に分類されます。

 抗力型は風の力を受け止めることで回転するタイプで、代表的なものはロータの先端に半球形の「風杯」を付けた、風速計などによく用いられている「パドル型」風車です。風力発電機に使われる抗力型風車には、縦半分に切った円筒を周方向にずらしたような形状のブレード(羽根)を垂直軸と組み合わせた「サボニウス型」があります。抗力型+垂直軸型の風車はコンパクトな設置スペースで運用でき、風がどの方向から吹いても、ほぼ一定の回転数を保てるといった特長を持っていますが、風からエネルギーを受け取れる効率があまり高くないことから、比較的小規模な風力発電設備に用いられています。

 一方、揚力型は、ロータに備わっているブレードの表面と裏面で空気の流速が異なるような形状とし、それによって生じる「揚力」を利用して回転するもので、航空機の羽根と同じ原理に基づいたものです。私たちが「風力発電」と聞いてとっさに思い浮かべる「プロペラ型+水平軸型」がその代表格で、中〜大規模風力発電機のほぼすべてがプロペラ型風車を採用しています。ちなみに、中小規模風力発電機では、垂直軸に「ジャイロミル型」「ダリウス型」などの揚力型風車を組み合わせたものもあります。

 最近はロータではなく「凧」を使った風力発電システムなども考案されていますが、今回はプロペラ型風車を使った中〜大規模な風力発電システムの話に限ったものとします。

■ 代表的なプロペラ型の構造


 

プロペラ型風車を使った大規模風力発電システムは、風車の他に「増速機構」「発電機」「ヨーシステム」などを内部に収め、また風車の水平軸を保持する「ナセル」、ナセルとロータを支持する「タワー」、そして全体の制御システムによって構成されています。こう書くと非常に単純な機構に思えるかもしれませんが、実際の風力発電システムには、なるべく高効率に、かつ風が弱い時でも発電するための、さまざまな仕組みが盛り込まれています。

 まずは、風車の「向き」を制御する仕組みが非常に重要です。プロペラ型風車による風力発電システムでは、ブレードに対してまっすぐに風が当たっている状態が最も効率が高まるので、ロータを常に風上側に向けておきたいからです。このため、ナセル全体が360度回転できるように作られ、かつ、ナセル部に備わる「風向風速計」が感知した風向きに応じてロータの向きを変化させています。ほとんどの場合、この仕組みはタワーとナセルを接合する「ハブ」と呼ばれる部分に組み込まれた歯車で構成する「ヨーシステム」によって行われています。

 

発電の効率化と課題への対応


 ロータの向きだけではなく、羽根の角度(ピッチ角)も可変化されています。風力発電機用のロータは、風速が規定の範囲にある状態でだけ回転・発電を行い、範囲外ではブレーキをかけて停止します。発電できる最小の風速を「カットイン風速」、最大の風速を「カットアウト風速」と呼びます。

 風速が小さい場合は、風から受け取れるエネルギーも小さいので、羽根のピッチ角を大きくして揚力を高めることで回転を維持しますが、カットイン風速以下では、ピッチ角を最大にしても発電機に十分な力を伝えることができなくなるわけです。そして、風速が高まるにつれてピッチ角を小さくしていきます。本来は、ロータの回転数が高ければ高いほど多くの電力が得られるのですが、実際の風力発電機はロータに「最大回転数」を設定していて、ピッチ角を最小にしても最大回転数を超えてしまう風速=カットアウト風速に達すると、ロータにブレーキをかけて回転を止めてしまいます。

 間近で見ないとピンと来ないかもしれませんが、実際の中〜大規模風力発電システムは巨大建築物です。たとえば、富士重工業が製造・販売している最大発電能力2,000kWの風力発電システム「スバル80/2.0」の場合、ロータの直径が80m、タワーの高さが60mもしくは80mというサイズです。ブレードは軽量化のためグラスファイバーで作られていますが、それでも重量は40t程度に達します。

 それだけの重量のものが回転するのですから、ロータには巨大な遠心力がかかり、回転数が高まるにつれて、羽根がたわんでタワーに接触してしまったり、回転慣性質量の増加で破壊される危険性が高まります。そのようなトラブルを避けるため、ロータの回転数に上限を設定しておくわけです。ちなみに、スバル80/2.0のロータ最大回転数は1分間に17.5回転ですが、この状態のブレード先端の移動速度は時速200kmを超える計算になります。


 風力発電機の課題の一つに「暴風対策」があります。台風などの暴風時は風の強さに加えて、風向きが短時間のうちにひんぱんに変わることで、ロータが思わぬダメージを受けてしまうことがあるのです。一方で、ブレードの強度・剛性を高めるのにも限界がありますし、ブレードはなるべく軽量に作っておきたいものでもあります。この課題解決のため、「フリーヨー設計」の採用例が増えています。ブレードのピッチ角を最小状態で固定した上で、ナセルが自由に回転できる状態とすることで暴風を受け流し、ナセルを自在に回転可能な(フリーヨー)状態とすることで破損を防ぐわけです。

 また、「増速」も重要な課題です。発電機側の構造にもよりますが、基本的には高回転=高発電量となりますから、ロータ軸の最大回転数が17.5回転/分では、発電機に十分なエネルギーを与えることは困難です。そこで歯車機構などを使い、ロータの回転を「増速」してから発電機へ入力する構造が一般的となっています。スバル80/2.0の場合、ロータが最大回転数の17.5回転/分の状態で、発電機への入力軸は2,100回転しています。つまり、回転数を120倍に増速しているわけです。ただし、風力発電の問題点の一つである「騒音」は、ブレードの風切り音に加えて、増速機構の駆動音も大きな原因となるため、歯車機構そのものと歯車表面には、非常に高い精度が求められます。

■ 場所によってもカスタマイズ

 


 プロペラ型風車で効率よく発電するためには、羽根そのものの設計が非常に重要になりますが、それ以外にもいくつかの鍵になるポイントがあります。通常、ロータはタワーに対して少し角度を付けてマウントされています。これは、暴風時に羽根がたわんでタワーに接触することを避ける意味と、やはり風を受ける向きによって効率を高める意味があります。

 通常の風力発電機は、ロータをタワーの前方(風上側)に置き、ロータ上端がタワー側に傾斜する「アップウインド型」と呼ばれる構成を採用しています。先述の風力発電の課題の一つに、ロータの回転による騒音問題があるのですが、それを避けるため、大規模な風力発電所は人里離れた場所に設置されることが常です。風力発電の本場とも言えるヨーロッパでは平原に設置することが多いので、アップウインド型ロータでかまわないのですが、日本のように山岳地帯が多い地域では、人里離れた場所イコール山岳地帯であることが多く、そのような場所では風も地面から空に向かって吹く「吹上風」となるので、アップウインド型ではプロペラの効率が低下してしまいます。そのため、スバル80/2.0はロータをタワーの後方(風下側)に配置してロータ上端をタワー側に傾斜させた「ダウンウインド型」を採用しています。

 また、発電性能以外の面で非常に重要視されるのが「耐雷性能」です。人里離れた場所に50m超といった高さの建造物を建てるので、当然、雷の標的になりやすいわけです。また、日本に落ちる雷はかなり強いエネルギーを持っており、特に北陸地方で冬に発生する「ブリ起こし」などと呼ばれる雷は、世界最大級の強さと言われています。そんな強い雷が落ちてしまうと、内部の制御系電子装置はもとより、ブレードなどの部品にもダメージが及んでしまうため、念には念を入れた対策が必要になります。具体的には、羽根の先端に「チップレセプター」と呼ばれる金属片を埋め込み、そこから落雷の電気エネルギーをうまく地面へ逃がすための経路を作りこみ、かつ絶縁を入念に行う、といった手法が用いられています。

 今回、取材のために実際の大規模風力発電機を見学に行ったのですが、実物を目の当たりにすると、そのサイズに圧倒されます。ロータの回転軸が位置する地上80mといえば、21階建てビルと同じ高さですし、たとえば「タワー内部にはメンテナンス時にナセル部まで上るための階段が造り付けられているが、一気に上るのは難しいので途中に休憩用のスペースが設けられていたり、オプションでエレベーターが用意されている」といった話を聞くと、風力発電機に抱いていたイメージが変わるのではないでしょうか。今後、日本の各所に建築が予定されていますから、機会があれば、みなさんもぜひ一度、実物をご覧になることをおすすめしたく思います。


著者プロフィール:松田勇治(マツダユウジ)
1964年東京都出身。青山学院大学法学部卒業。在学中よりフリーランスライター/エディターとして活動。
卒業後、雑誌編集部勤務を経て独立。
現在はMotorFan illustrated誌、日経トレンディネットなどに執筆。
著書/共著書/編集協力書
「手にとるようにWindows用語がわかる本」「手にとるようにパソコン用語がわかる本 2004年版」(かんき出版)
「記録型DVD完全マスター2003」「買う!録る!楽しむ!HDD&DVDレコーダー」「PC自作の鉄則!2005」(日経BP社)
「図解雑学・量子コンピュータ」「最新!自動車エンジン技術がわかる本」(ナツメ社)など

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