テクの雑学

第165回 電気の送り方で節電できる? 〜注目される超伝導直流送電〜

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

電力不足が懸念されるこの夏、「省電力」への関心が高まっています。利用者による節電ではなく、電気の「送り方」を変えることで省電力ができる可能性を秘めている技術が、現在研究されている「超伝導直流送電」です。

送電中に「熱」で失われる電気

超伝導直流送電がなぜ省電力になるのかを理解するために、電気の性質について、簡単なおさらいをしましょう。

 私たちが日常使っている電気は、「発電所」で作られて、利用者の元まで、電線を通って「送電」されています。電熱線に電流を流すと発熱する現象は日常生活でも利用されていますが、送電用の電線にも電気抵抗があるため、電流が流れると、同じように発熱します。発熱するということは、発電した電力エネルギーの一部が、熱エネルギーとなって、失われてしまうということです。したがって、ムダなく送電するためには発熱を減らさなくてはいけません。発生する熱量は、ジュールの法則に従い、電流の2乗と電気抵抗に比例します。


 つまり、発熱量を減らすには、電流を小さくするか、送電線の電気抵抗を小さくするかのいずれかが有効なことがわかります。

 さて、発電所で発電された電力と、送電線にかかる電圧・送電線を流れる電流の間には、「電力=電圧×電流」という関係があります。つまり、送電線の抵抗を変えられないのであれば、電圧を大きくするほど小さい電流で大きな電力を送ることができるのです(交流の場合には、もう少し複雑な関係式になりますが、電圧を上げるほど小さい電流でも大きな電力を伝送できるという関係は変わりません)。

 すなわち、高電圧で送電できれば、熱によるエネルギーの損失を減らすことができるのです。

■ 「交流送電」が主流な理由

 さて、電流には直流と交流があります。現在、多くの国は交流方式による送電システムを採用していますが、19世紀にアメリカでエジソンが設立した電灯会社(エジソン電気照明会社・後のゼネラル・エレクトリック社)は、直流電源・直流送電を採用していました。

 交流電源と交流方式の送電システムを発明したのは、エジソンの会社の技術者だったニコラ・テスラです。しかし、交流方式の採用をめぐってエジソンと対立したテスラは独立。その後、エジソンのライバル会社であるウェスティングハウス社などが交流方式を採用し、やがて交流が主流になっていきました。

 単純に送電の効率だけ見ると、交流送電で発生する距離による減衰や無効電力(電流の向きの切り替わりにより生じるムダな電力)がない分、直流送電の方が効率がよくなります。にもかかわらず、交流送電が主流になった理由は、電圧を上下する変圧器の仕組みが簡単で、送電時の熱の発生を抑えやすかったからです。


 送電時には高電圧で送っても、人が使うときには電圧をある程度まで下げないと、危険なので使えません。変圧器を利用することで、電圧を自由に調整して、柔軟に送電網を簡単に構築できたので、交流送電が広まったのです。


 現在では、半導体素子の進歩により、直流変圧器の変換効率も交流変圧器と遜色ないレベルになっています。変圧器の問題さえ解決できれば、直流送電の方が効率がよいわけですから、送電網を新しく構築している新興国などでは、直流送電を採用するケースも増えています。また、日本でも、本州と北海道の間などの長距離伝送では直流送電が採用されている場合もあります。

■ 抵抗を減らして熱を減らす

 ここで、最初にご紹介した「ジュールの法則」を、もう一度思い出してください。発熱を減らすには、「電流を減らす」だけではなく、「電線の抵抗を減らす」という方向のアプローチがあります。超伝導直流送電が省エネルギーになるのは、これが理由です。

 超伝導体とは、一定の温度まで冷却すると電気抵抗がゼロになる物質です。すなわち、超伝導体を冷やしながら送電する送電線を使えば、電気抵抗はないのですから、熱は発生しません。

 注意しなくてはいけないのは、超伝導体を使う場合、交流電流では電気抵抗は完全にはゼロにならないということです。というのは、交流電流では、電圧が周期的に変化しますので、電流変化に伴う電磁誘導で、磁場が発生します。そのため、電気抵抗は完全にはゼロにならず、熱が生じます。超伝導にするためには冷やさなくてはいけないので、熱が生じてしまうのは、さらに冷やすためのコストも余分にかかるため、二重の意味でムダになります。超伝導のメリットを最大に生かすには、直流送電の方が望ましいのです。

 超伝導直流送電を研究している、中部大学の超伝導・持続可能エネルギーセンターでは、2010年3月、ビスマス化合物の超伝導体を利用した実験送電システムで、200メートルの伝送に成功しました。使用したケーブルは、銅線にプレート状のビスマス化合物を巻きつけた銅線を、外側から液体窒素で冷却します。さらに、液体窒素が流れる管の外側を真空にして外気と遮断することで、断熱性を高めています。

■ 短い距離でも大きな節電効果

 とはいっても、現在交流で構築されている送電システムを、全部直流送電に置き換えるのは大変なことです。それでも、最寄りの変電所から大口電力利用者(データセンターや工場など)への経路だけを直流化するだけでも、排熱が減ることでエアコンなどの電力も減り、トータルで4割程度電力が削減できるという試算*もあります。

*【参考情報】日本経済新聞 電子版「超伝導直流送電、実用化へ産学が結集 実験設備が始動」


 石油のパイプラインのように電気のパイプラインを構築して、国際的に電力を融通する構想もあります。たとえば、砂漠など、天候が良く太陽力発電に適した場所から、電力需要地に電気を送ることで自然エネルギーの利用を促進したり、時間帯による電力需要の波を利用して、電気が余っている夜の地域にある発電所から、電気が足りない昼の地域に送電し、世界的に電力需要を平準化することで、省電力につながります。

 長距離の送電を、エネルギーのムダなく行える技術は、限られた資源を有効に使うだけでなく、地球上に偏在する風や太陽光や地熱などの自然エネルギーを、離れた場所で利用するために欠かせない技術です。今後の発展が期待されます。


著者プロフィール:板垣朝子(イタガキアサコ)
1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける
著書/共著書
「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム)
「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など

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