テクの雑学

第135回 触らず、念じて操作する 〜脳波センサの仕組み〜

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

指一本動かさず、心で思うだけで、ものが動く。ゲームの中では、そんな世界が体験できるようになっています。ヘッドセット式の脳波計で人間の脳波を計ってゲーム内のオブジェクトを操作する「脳波コントローラ」を使ったゲームが発売されているのです。今回の「テクの雑学」では、脳波コントローラを動作させる「脳波」を計る仕組みについて紹介しましょう。

脳波の正体は電気信号

ところで、脳波とはいったい何でしょうか。それを知るためには、まず、「脳の活動とは何なのか」について知る必要があります。

 脳の中には、およそ140億個もの神経細胞(ニューロン)が接続されたネットワークが構成されています。私たちが何かを考えたり、記憶したり、思い出したり、身体を動かしたりする時には、神経細胞の間で情報伝達が行われます。これが、脳の活動です。

 情報伝達は、神経細胞間での化学物質の受け渡しにより行われますが、この化学物質の放出は、電気信号によってコントロールされます。つまり、脳の活動を外部から観察するためには、電気信号の動きを観察すればよいのです。


 19世紀から動物の脳の電気活動は報告されていましたが、1924年にドイツの精神科医ハンス・ベルガーが、人間の脳に同様の活動があることを発見しました。ベルガーは1929年に「人間の脳電図について」という論文を発表し、ヒトの脳波について広く知られるようになりました。

■ 脳波計は電圧計

 医療目的で脳波を測定する時は、脳の「どこ」が活動しているかが重要な情報になります。そのため、多数の電極をセンサとして、頭皮の表面や、場合によっては脳に直接配置して、電圧の変化を記録します。よく使われるのは、国際10-20法(ten-twenty法)という21個の電極を配置する方法ですが、研究目的などではもっと多数(60個など)の電極を配置することもあります。

 しかし、私たちがよく耳にするα波、β波といった波は、脳全体に出現する「基礎律動(背景脳波)」とよばれる活動です。脳波の分布ではなく、脳全体としての活動が高まったり、低下している、といったことを表している波です。したがって、測定に必要なセンサも数個程度でよいのです。

■ どうやって「波」を取り出すの?

 ゲームで使われているヘッドマウント方式の脳波計のセンサの数は、1〜3個程度で、耳とおでこの間の電位差をとって、基礎律動を測定しています。しかし、測定した電位差が、そのまま脳波を表すわけではありません。

 まず、頭皮表面に電極を付けるタイプのセンサなので、脳波だけでなく顔の筋肉に流れる電流がノイズとして一緒に観測されるため、それをフィルタで除去しなくてはいけません。
 次に必要な作業は、観測した電位差から、脳波の「成分」を取り出すことです。測定できる電位差の変動は、複数の脳波の変動が合成された結果なので、「フーリエ解析」という手法で、周期性のある波の成分を分離します。
 

 主な基礎律動には周波数帯域ごとに以下のように名前が付けられており、それぞれ異なった生理学的な意義があります。


 一般に健常者では、目を閉じて意識のある状態で安静にしている時にはα波が多く出現するなどといった特徴があります。ゲーム機の脳波コントローラは、これらの組み合わせのパターンから、集中度やリラックス度を計算して出力し、ゲームを操作します。
 

 ※実際の集中度やリラックス度と脳波の関係には人によって個人差があります。あくまでもゲームとして楽しみましょう。

 脳の電位差を使って信号を取り出し、コンピュータを操作したり、もっと詳細な脳波の分布を測定して、「手を動かしたい」と思った時に義手や義足などを操作する、BMIという仕組みが注目を集めています。2009年6月、理化学研究所やトヨタなどが参加する理研BSI−トヨタ連携センターは、脳波の解析により、電動車いすの全身・左右旋回の3方向を95%の信頼度で制御することに成功しています。

【 参考情報 】

■脳波で電動車いすをリアルタイム制御
−Brain Machine Interface(BMI)の新しい脳信号処理技術を開発−
(理研BSI−トヨタ連携センター プレスリリースより)


 まさに「念じるだけで動かせる」世界が、現実のものになりつつあります。身体が不自由な人にとっては、究極の補助装置になります。今後の発展が期待できる分野です。


著者プロフィール:板垣朝子(イタガキアサコ)
1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける
著書/共著書
「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム)
「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など

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