テクの雑学

第123回 ICチップと写真の深い関係?〜回路を「焼き付ける」フォトリソグラフィ技術〜

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

コンピュータや電化製品の部品に欠かせないのが、「集積回路」とよばれるICチップ。とても小さな面積に、複雑な電子回路を作り上げるためには、さまざまな技術が使われています。今回のテクの雑学では、ICの複雑な設計図を正確に写し撮るための、「フォトリソグラフィ」を紹介しましょう。

ICチップは電子回路

 ICチップとはそもそも何でしょうか。その働きは、コンデンサや抵抗などの部品を線でつなぐ、電子回路と同じものですが、一辺数ミリ以下、ものによっては1ミリ未満の微小な面積のシリコン板の上に、多数の部品が詰め込まれ、複雑に配線されています。

 そのような小さな部品を作るのも大変ですが、部品を人の手で並べて線をつなぐことは不可能です。実際には、ICチップの設計図である回路図を、そのままシリコン板の上に転写し、回路図の配置通りに半導体を直接生成するという製造方法がとられています。回路図をICチップに転写するための技術が「フォトリソグラフィ」です。


 

「部品を並べるのが難しければ、その位置に部品を作ってしまえばいいじゃない」という、まさにコロンブスの卵の発想ですね。

■ 写真の仕組みで焼き付ける

 フォトリソグラフィは、その名前から想像できるとおり、写真の現像の仕組みを応用した技術です。写真の現像では、フィルムと感光紙を重ねて光をあて、感光紙上で化学反応を起こして画像が現れますが、フォトリソグラフィでは紫外線を使います。

 シリコンウェハの上に薄い酸化金属膜を敷き、その上に紫外線と反応する「フォトレジスト剤」を塗布します。これが、感光紙にあたります。その上に、フィルムにあたる回路の「型」を置いて紫外線をあてると、型抜きされた部分のフォトレジスト剤が反応して、型に沿って酸化金属膜が露出します。

 その後、エッチング処理で、むき出しにされた酸化金属膜を取り除き、フォトレジスト剤も取り除きます。こうすることで、シリコン板の上に元の型の通りに酸化金属膜が残り、回路図がそのまま転写された状態になるのです。

 部品を配置していくのはシリコン板の表面です。半導体はシリコンの結晶にリンやヒ素などの不純物が入り込んだものですから、トランジスタやダイオードなどの素子を配置したい部分以外を覆って、シリコンに不純物を染み込ませていくことで、目的の位置に素子を形成できるのです。

■ 微細で複雑な回路を作るステッパ

 フォトリソグラフィ技術が開発された当初は、「型」をそのままのサイズでシリコン板に転写していましたが、時代とともにより集積度の高い小さな回路が求められるようになり、実物大の型の加工そのものが非常に困難になってきました。

 現在は、実物の4〜5倍程度の大きさの型(レチクル)を縮小投影する「ステッパ」が使われています。

 レチクルを交換しながら、素子の作成と回路の転写を繰り返すことで、より複雑な回路パターンを形成していきます。

■ 細かさを決めるのに重要な紫外線の波長

 フォトリソグラフィでは、光が型を通過する時に、型で覆われている部分に回り込む「回折」という現象が発生します。回り込みの程度は使用する光の波長に依存するため、紫外線の波長よりも細かいパターンを転写するためには、回り込みを打ち消すための複雑な技術が必要になります。

 現在利用されているフォトリソグラフィでは、フッ化クリプトン、フッ化アルゴンなどのレーザ光を利用しています。使用している波長は、フッ化アルゴンで193ナノメートルとなっており、この光を利用して転写できる線の幅は約1/4の45ナノメートルとなっています。つまり、この45ナノメートルが、転写する回路図の細かさの限界となっています。

 より密度の高いICチップを製造するために、現在、より波長の短いEUV(超紫外線)の実用化に向け研究が進められています。具体的には、光源の開発と、対応するフォトレジスト剤の開発が課題となっています。


著者プロフィール:板垣朝子(イタガキアサコ)
1966年大阪府出身。京都大学理学部卒業。独立系SIベンダーに6年間勤務の後、フリーランス。インターネットを中心としたIT系を専門分野として、執筆・Webプロデュース・コンサルティングなどを手がける
著書/共著書
「WindowsとMacintoshを一緒に使う本」 「HTMLレイアウトスタイル辞典」(ともに秀和システム)
「誰でも成功するインターネット導入法—今から始める企業のためのITソリューション20事例 」(リックテレコム)など

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