電気と磁気の?館

No.73 ソーラー腕時計に内蔵されたフィルム太陽電池

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

時計(とけい)の語源は、日影の長さを計る目盛り尺の“土圭(とけい)”

 江戸城には和時計が置かれた“土圭(とけい)の間”という部屋があり、時報担当の御坊主が、太鼓を叩いて時を知らせていました。この“土圭”とは、“時計”の当て字かといえばさにあらず。逆に“時計”が“土圭”の当て字なのです。
 昔は地面に対して垂直に棒を立て、太陽の南中時の影の長さを測定して、1年の節目を知りました。影の長さが最も短くなる日が夏至、最も長くなる日が冬至です。この棒のことを、中国では“表(ひょう)”あるいは“髀(ひ)”といい、影の長さを測るために地面に据えた目盛り尺を“圭(けい)”とか“土圭(とけい)”といいました。この土圭が時計の語源です。地面に立てた垂直棒は、日時計にもなることからも、 土圭が時計のルーツであることが納得できます。
 中国においては、古来、暦計算の起点は冬至とされ、精密な暦をつくるためにも、冬至の日時を正確に知る必要がありました。しかし、地面に立てた棒のような簡単な装置では精度に限界があります。そこで、13世紀中国(元の時代)には、高さ40尺(約12m)の巨大な“表”と、長さ128尺(約38m)にも及ぶ“圭”(石製なので“石圭”という)からなる建造物がつくられました。これは、天体観測所も兼ねていたので“観星台”と呼ばれました。
 しかし、いかに施設を巨大にしても、太陽は点光源ではないので、日影の先端は半影となってぼやけます。そこで景符と呼ばれる装置が用いられました。これは小さな穴のあいた角板で、日影の先端を通過させることで、ピンホールカメラと同じ原理により、ぼやけた日影をシャープにして目盛りを読んだのです。
 観星台を設計したのは、中国史上最大の天文学者・数学者・技術者といわれる郭守敬(かくしゅけい)です。郭守敬はまた、釜のような半球形の日時計を研究したことでも知られます。これをもとに製作されたのが、“仰釜日晷(ぎょうふにっき)”と呼ばれる韓国の日時計。時刻と季節(二十四節気)が同時に読み取れるというすぐれものです。

 

 

 

■ 小型内蔵アンテナコイルが電波を受信、補正の必要がない電波腕時計

 地面に立てた垂直棒は、西洋ではノーモン(gnomon:ギリシャ語読みではグノーモン)と呼ばれました。西洋の日時計は、このノーモンがルーツで、機械時計も日時計から発展して生まれました。時計の針が右回り(時計まわり)なのは、ノーモンの影が日の出から日没まで右回りに動くことに由来するといわれます(ただし、日時計の影の動きは、南半球では左回りとなります。もし、古代文明が南半球に発祥していたら、時計の針の動きは左回りになっていたかもしれません)。
 機械時計の小型・精密化によって、携帯用の懐中時計が製作されるようになったのは17世紀。当時は方位磁石や日時計も併用されました。何しろ精度が悪いので、方位磁石で南の方角を知り、太陽の南中時(正午)に、時計の針を12時に合わせていたからです。
 19世紀になると腕時計も登場し、20世紀には水晶振動子を利用したクォーツ時計も発明され、時計の精度は飛躍的に高まりました。現在、普及タイプのクォーツ腕時計でも、誤差は1日で1秒未満という精度を誇りますが、このわずかな誤差まで自動補正してくれるのが電波時計を利用したクォーツ腕時計です。
 ラジオやテレビの時報などで知らせてくれる日本標準時は、誤差が30万年に1秒未満というクォーツ時計よりもケタ違いに高精度なセシウム原子時計によってつくられています。この日本標準時を福島県のおおたかどや(大鷹鳥谷)山と佐賀・福岡県境のはがね(羽金)山の2カ所の送信所から、標準電波として送信しています。電波腕時計は、普段はクォーツ時計として動いていますが、定期的に標準電波を内蔵する小型アンテナコイルで受信し、信号をマイクロプロセッサが処理して誤差を補正して時刻を表示させます。これが電波時計の時刻合わせのしくみです。標準電波には地上波として遠方まで届く長波が利用されています。このため、2カ所の送信所でほぼ日本全国をカバーすることができます。

 

■ フレキシブルなフィルムタイプのアモルファスシリコン太陽電池

 電波時計の電波を受信して、自動的に補正しながら時刻表示する電波腕時計により、実用的な腕時計としての精度は頂点に達しました。残された課題はバッテリ交換の面倒を解消することです。このニーズに応えて登場したのが、太陽電池によって内蔵2次電池を充電するソーラー腕時計です。世界初のソーラー腕時計は、文字盤の部分を太陽電池が占め、時刻表示は側面の小さなスペースでデジタル数字で表示するものでした。しかし、これではデザイン性を重視するユーザーの心をつかむことはできません。そこで、開発されたのが透光性のある文字盤を用い、その下に太陽電池を内蔵させたり、文字盤の周囲にリング状の太陽電池を内蔵させたタイプのソーラー腕時計です。
 こうしたソーラー腕時計には、TDKのフレキシブルなフィルムタイプの太陽電池が使われています。太陽電池には単結晶シリコン系、多結晶シリコン系などがありますが、TDKのフィルム太陽電池は、プラスチックフィルムにアモルファスシリコン半導体の薄膜を形成したもの。薄く軽くフレキシブルで、自由な形状に切断・加工できるのが長所で、ソーラー腕時計にはうってつけなのです。また、変換効率は単結晶シリコン系などとくらべて低いものの、ロール・トゥ・ロール工法で量産できるため、コストパフォーマンスにすぐれるのも特長。ここには、カセットテープやビデオテープの生産で培ったプラスチック技術や自動化技術が生かされています。
 アモルファスシリコン太陽電池の光感度は、人間の視感度や蛍光灯のスペクトルに近く、これまで主に室内用途を中心に使われてきました。ソーラー腕時計に採用されたのも、家庭やオフィスなど、蛍光灯の照明環境でも効率的に発電できるからです。TDKでは屋外での変換効率を大幅に高めた新製品も開発。ソーラー腕時計のみならず、スマートカードや電子書籍など、幅広い分野での利用拡大が期待されています。
 

 

 

 

PAGE TOP