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GRAIN54 組成で操るマイクロウエーブ

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

組成で操るマイクロウエーブ

磁化されたフェライト素子を伝ぱんする電磁波が、その偏波面をねじったり進路を曲げたりするのは、電磁波の分解成分とみなせるふたつの円偏波の回転方向が、フェライト磁性の根源であるスピン磁気モーメントの回転方向(直流磁界Hdc方位に対し右ネジの関係にある)と同方向(正円偏波)か逆方向(負円偏波)かで、透磁率μの大きさに開きが生じるからであった。つまり、そのような原理をふまえた上で、Hdcの強さを精妙に操作し、正負円偏波のμ値を巧みにコントロールすれば、偏波面のねじれ角度をピタリと45°に揃えたり、電磁波の進行方向を右前方60°に規制したりする技もそれほどむずかしいことではない。

しかし、このような角度コントロールは、電磁波のさまざまな周波数に対応できる自由度を持つのだろうか。

なにしろ、マイクロ波用素子を必要とする周波数帯域は、VHF帯からミリ波帯まで、広範囲に及んでいる。仮にいま、周波数f1の電磁波を所定の進路に曲げるサーキュレータに、f1をかなり上回る周波数f2の電磁波を送り込むケースを考えてみる。定在波を立たせるために、内蔵するフェライト素子を、f2波の半波長に合わせた小さめのものに交換するのは当然としても、はたしてそれだけの手当てで、f2波の進路は首尾よく所定の方向に曲がってくれるのだろうか。

そこで、下に並ぶ2つのグラフにご注目いただきたい。上のグラフは、変更前の周波数、f1ポイントにおける直流磁界Hdc(横軸)とμ変化(縦軸)の関係を表わし、下のグラフが、f1からf2に周波数を切り替えた上記の設問に対する回答である。

GRAIN 49(ギガヘルツ帯の共鳴現象)で詳しく見たとおり、直流磁界Hdcが強まるほどに強磁性共鳴周波数も高周波側にシフトすることになるが(磁気モーメントの固有振動数ωが高まる結果である)、このことを上の2つのグラフに照らして言いかえれば、周波数f1の電磁波を、さらに高域のf2波にシフトすれば、Hdcを強めない限り強磁性共鳴は誘起されないことになる。その結果、回転素子の動作領域における正負円偏波のμ値の開きは、f2の[a]に示すとおり、f1の[a]に比べてかなり偏狭となり、f1の[a]に設定したμ値の開き(つまり進路の向きを所定の角度に合わせるために必要な開き)をf2のグラフに求めると、[b]で示したポイント辺りまで直流磁界、すなわちフェライト素子をはさむマグネットの磁力を強めてやらなくてはならない。

だが、たとえそのような手を打ったとしても、この領域は、点線で示したμ"+の損失成分が無視できない立ち上がりを示す非実用的なデッドゾーンであり(強磁性共鳴ポイントに近づくにつれ、磁気モーメントと高周波磁界=電磁波との位相ズレが除々に大きくなる経緯を想起していただきたい)、進路の向きは確保できても、フェライト素子を通過した電磁波はヘトヘトに疲れ果ててしまうことになり、信号レベルの減衰は避け得ない。

そして、この難題に突き当たったところで、マイクロ波用フェライトの組成制御、とりわけ飽和磁化Isの制御話がいよいよ出番を迎えることになる。

飽和磁化Isの具体的な設定手法については次節以降に迫るとして、以下に示す第三のグラフを元に、飽和磁化Isの"効果"とその取り扱いの"微妙"についてサラリと触れておきたい。

GRAIN 13(磁壁の個性とフェライト磁性)で述べたとおり、ヒステリシスループでおなじみの磁束密度Bは、磁壁移動や磁気モーメントの方位変化により、磁化方位に投影されたボーア磁子量MBの総量、すなわちフェライトに固有の"磁化I"に、外部磁界による磁束密度μ0Hを加えたものであった。そして、"磁化I"は、フェライト単位体積あたりに内在する磁気モーメント量が大であるほど大となり(小は「B格子-A格子-B格子」1ユニットの綱引きの結果から、大は結晶の焼結密度まで、さまざまな要因がこの値にからむことはすでにご承知のとおりである)、これはすなわち、単位印加磁界Hあたりの磁化Iの増大、すなわち、μ(B/H)も高まることを意味する。

上のモデルに示すように、"飽和磁化Is"とは、マグネット磁界Hdcなどにより、フェライト中のすべての磁気モーメントが、一糸乱れず、その頭を磁化方位にピタリと揃えたときの"総磁化量"を意味するが、この値が大きな素子を起用すれば、上記の理由により、損失の少ない動作領域における正負両円偏波の透磁率μ+、μ-の開きも大きくなり(下のグラフの[C]ポイント)、信号を劣化させることなく所定の進路を確保することも可能になる。だが、磁界方位と直行する方位軸に投影される磁気モーメントの成分が損失μ"の正体であることを思い起こしていただきたい。つまり、単位体積あたりの磁気モーメント量の増加、すなわち飽和磁化Isの増大は、残念なことに、μ'のみならずμ"をも増大させ、自然共鳴による損失ピークもせり上がることになる(μ周波数特性グラフの赤い矢印が示す点線)。そして、ややもすると底上げされたμ"の裾野が設定した周波数帯域まで覆いかぶさってくるので、飽和磁化Isを高めればすべてよしとも言えず、その辺りの折り合いを極めるところにIs制御のむずかしさと妙味がある。

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