TDKのコアテクノロジー

Vol.14
サージ保護素子と「素材技術」、「製品設計技術」

2022.05.23

私たちの身の回りの電子機器には、過大な電圧・電流・温度などによる回路の誤動作や故障を防ぐために、さまざまな保護素子が使われています。このうち、各種サージから回路を守る電子部品は、サージ防護デバイス(SPD)やサージプロテクタなどと呼ばれます。本記事では、配電線や通信線の避雷器はじめ、産業機器、自動車、家電機器、OA機器などのサージ対策や静電気対策に用いられるTDK製品と、それを支える技術について解説します。

発生原因からみたサージの種類

瞬間的に押し寄せる異常に高い電圧/電流(過電圧/過電流)のことをサージ(surge)といいます。サージは発生原因によって、以下のように分類されています。このうち電子機器に最も大きな被害を与えるのは、配電線や通信線を通して屋内に侵入してくる「雷サージ」です。雷サージには落雷による直撃雷サージと、雷雲内部や雷雲どうしの雲放電によって起きる誘導雷サージがあります。開閉サージは、電流が急激に遮断されるときの逆起電力によって発生するサージです。

電圧レベルが低いサージはノイズとも呼ばれ、その除去・抑制には各種のEMC対策部品が用いられる。

建物内へのサージの侵入経路

各種サージから回路を保護するデバイスをSPD(サージ防護デバイス)といいます。SPDは避雷器とも呼ばれますが、住宅などの電力引込口や配電盤、通信線の引込口に使われる低圧電力用SPDは、発電所・変電所などの避雷器(高圧配電用・特別高圧配電用)避雷器と区別され、保安器などとも呼ばれます。低圧電力用SPDは、以下のように分類されています。

《低圧電力用SPD》
●クラスⅠ:主に直撃雷サージに対する保護。電力引込口に設置。
●クラスⅡ:主に誘導雷サージに対する保護。配電盤・制御盤などに設置。
●クラスⅢ:主に開閉サージに対する保護。電気・電子機器の近傍に設置。

このほか、主に誘導雷に対する保護として、アンテナや通信線などに設置する通信用SPDがあります。住宅などの建造物へのサージの侵入経路を模式化すると、次のようになります。

ESD/サージ保護デバイスの種類

サージは短時間に急激に立ち上がって減衰していく特有の波形をもち、そのエネルギーの大きさは、波形の面積に比例します。ドアノブに触れたときなど、私たちが日常生活で経験する静電気放電(ESD)の電圧は数千~1万V超にも及びますが、瞬間的かつ電流はきわめて小さいため、人体に致命的な被害を与えることはありません。しかし、ESDなどエネルギーが比較的小さいサージもIC/LSIにとっては誤動作や損傷の原因となるため、保護デバイスによる対策が求められます。

ESD/サージ保護デバイスは、クランピング型とスイッチング型に大別されます。クランピング型は、通常は高い抵抗値を保ちますが、異常な過電圧が加わると抵抗値を急激に下げて、サージをアース側にバイパスし、回路側に流れる電流を一定の電圧以下に制限(クランプ)するタイプのデバイスです。バリスタやTVSダイオードなどが、代表的なクランピング型のサージ保護素子です。

スイッチング型は、加えられる電圧が一定の値を超えると、瞬間的に絶縁破壊を起こして導通するタイプで、GDT(ガス入り放電管)を用いたサージアレスタ(ガスアレスタ)などがあります。

ESD対策のために、モバイル機器などではチップバリスタやTVSダイオード(ツェナーダイオード)などが使用されます。

半導体セラミックスを用いたサージ保護デバイス「バリスタ」

発電所・変電所などの電力施設から、スマートフォンなどに搭載されるESD対策回路に至るまで、サージ保護デバイスの主役として活躍しているのはバリスタです。
バリスタ(varistor)とは、電圧によって抵抗が変化するという意味の“variable resistor”を略した造語です。古くは炭化ケイ素(SiC)がセラミックス系バリスタ材料として用いられてきましたが、1960年代の日本で、酸化亜鉛(ZnO)に各種添加物を加えた半導体セラミックスがすぐれたバリスタ特性を示すことが発見され、雷サージや開閉サージに対する保護素子として多用されるようになりました。

オームの法則に従わないバリスタの特性

バリスタ材料は、通常の抵抗体とちがって電圧によって抵抗値が非直線的に変化します。抵抗値の変化の割合を表す非直線係数(オームの法則に従う純抵抗の場合は1)は、炭化ケイ素(SiC)系では3~7程度ですが、酸化亜鉛(ZnO)系では30前後にも及び、下図のグラフのような電流-電圧特性となります。このため、バリスタはある一定の電圧(バリスタ電圧)までは高い抵抗値を示して電流をほとんど流しませんが、その電圧を超えると急激に抵抗値を下げて電流を流すようになります。この性質を利用して、サージを制限(クランプ)し、アース側にバイパスするのがバリスタの役割です。

一般にバリスタ電圧は、端子間に1 mAの電流が流れるときの印加電圧とされている。

サージ耐量に応じたバリスタの種類

バリスタはサージ耐量の大きさにより、ブロック型、ストラップ型、リード付きディスク型、チップバリスタなどに分類されます。

リード付きディスク型のバリスタの構造を以下に示します。バリスタ素子は多数の結晶粒からなる多結晶体の半導体セラミックスで、これをコンデンサのように電極ではさんだ構造となっています。身近な所では、雷ガード機能を備えた電源タップなどにも使われています。

バリスタ素体は、酸化亜鉛(ZnO)および添加物の粉末を混合・成型・焼成して製造される。結晶粒どうしの境界(粒界)には添加物が析出して高抵抗になるとともに、バリスタ特有の電流-電圧特性が生まれる。

ガス入り放電管タイプ「サージアレスタ」の原理と種類

サージアレスタ(surge arrester)は、ガス入り放電管タイプのサージ保護素子で、ガスアレスタなどとも呼ばれます。

下図のように、不活性ガス(アルゴンなど)を封入した密閉容器の内部における電極間の放電現象を利用したサージ保護素子です。電極間は通常は絶縁状態になっていますが、過電圧が加わると抵抗値が低くなり、まずギャップ周辺にグロー放電が発生し、続いて電極間のアーク放電となって持続的に電流を流すようになります。この性質によってサージをアース側にバイパスします。

リードタイプのほかSMD(表面実装部品)タイプなど各種ある。

電源ラインにおけるバリスタとサージアレスタの使用例

住宅の電力引込口などに設置される電源用SPD(単相交流)、および電子機器に使われるスイッチング電源のサージ保護回路例を以下に示します。

電源用SPDにおいて、2本のライン間に接続されるバリスタは、ライン間の異常な電圧差(ディファレンシャルモード)をバイパスするためのもの。ライン-アース間に接続されるバリスタは、2本の電源ラインを同方向に流れてくるサージ(コモンモード)をアース側にバイパスするためのものです。過大なサージ電流をまず応答性にすぐれたサージアレスタで吸収し、残留したサージをバリスタで吸収する2段構えの回路です。サージが抑制されても、なおサージアレスタの放電が継続することがあり(続流現象)、バリスタと組みあわせることで、これを防ぐことができます。

また、バリスタは通常はコンデンサとして機能するので、わずかながら漏れ電流が生じます。これを防ぐ目的でサージアレスタが直列接続されることもあります。バリスタとくらべてサージアレスタはきわめて静電容量が小さく、高周波信号に与える影響が少ないので、CATVや高速データ通信などにおける通信用SPDなどにも用いられています。

電源ラインなどではバリスタとサージアレスタが併用されることが多い。

静電気対策に用いられるTVSダイオードとチップバリスタ

続いてTVSダイオードとチップバリスタについて解説します。人体からの静電気放電(ESD)は、雷サージや開閉サージなどとくらべてエネルギーが小さいものの、動作電圧の低電圧化が進んでいるICやLSIにとっては脅威です。これらの回路の保護素子として、TVSダイオード(ツェナーダイオード)やチップバリスタが使われます。

TVSダイオードは極性があり、双方向でサージを吸収するには、2つの素子を逆向きに直列接続した製品が使われます。一方、チップバリスタは極性がなく1素子ですむうえ、小型で回路基板の省スペース効果も生むため、スマートフォンなどのモバイル機器をはじめとする電子機器に多用されています。

バリスタと同等の効果を得るためには、TVSダイオードはコンデンサも必要となる。

独自のコアテクノロジーによりチップバリスタの小型化を達成

チップバリスタの基本構造を以下に示します。MLCC(積層セラミックチップコンデンサ)と同様に、内部電極とバリスタ素体層が交互に積層された構造となっています。ただし、チップバリスタの小型化には、MLCCとは異なるきわめて困難な技術が求められます。

小型化するためには、内部電極の面積を小さくしたり、バリスタ材料層の厚みを薄くしたりする必要がありますが、そうするとサージ耐量が低下してしまうからです。また、微量の不純物もバリスタ特性を大きく左右するため、原料の純度や製造工程の管理に高度な技術が必要です。

TDKは材料設計技術や微細構造制御技術などの素材技術、焼成技術など、独自のコアテクノロジーを駆使し、バリスタ材料の結晶粒の緻密化・均一化を行う技術を確立するなど、チップバリスタの小型化をリードしてきました。

とりわけ、手に持って操作することの多いスマートフォンやタブレットなどのモバイル機器では、スイッチやボタン、イヤホンやヘッドセット用の金属端子などが、静電気放電によるサージの侵入口となります。そこで、多数のチップバリスタが使用されます。

豊富なESD/サージ保護素子をラインアップ

バリスタは雷サージや開閉サージから静電気放電(ESD)に至るまで、幅広い領域における過電圧保護用デバイス・回路に適しています。大サージ電流(約25kA以上)の保護にはブロックバリスタおよびストラップバリスタ、比較的小さなサージ電流 (100A~25kA)の保護には、各種のディスクバリスタが適しています。また、小さなサージ電流や静電気の保護には、チップバリスタ(CeraDiodes、積層チッププロテクタ、セラミック過渡電圧サプレッサなど)が適しています。

サージアレスタは低い静電容量と高い絶縁抵抗が特長です。静電容量が低いので高周波の信号に与える影響も少なく、CATVや高速データ通信などの通信ラインにも適しています。

TDKはバリスタとサージアレスタを中心とするESD/サージ保護デバイスを豊富にラインアップし、ESD/サージから回路の誤作動や部品の損傷を防ぐ役割を果たすことで、電子機器、自動車、家電製品、産業機器の安定した動作に貢献しています。

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