TDKのコアテクノロジー

Vol.11
ホールセンサと「磁気センシング技術」

2022.02.22

家電機器・OA機器・FA機器そして自動車など、エレクトロニクス機器に多用されている センサのひとつである「ホールセンサ」。電流磁気効果の一種であるホール効果を利用した磁気センサで、小型で量産性や汎用性にすぐれるため、ブラシレスDCモータのキーパーツとして、また高精度な角度センサや位置センサとして活躍しています。先進の2D・3Dホールセンサなど、TDKのコアテクノロジーを支える「磁気センシング技術」と各種ホールセンサ製品について解説します。

原理も種類もさまざまな磁気センサ

磁気センサとは、磁界の強さや磁極の向きを検知するセンサで、磁界センサとも呼ばれます。地磁気を感知して方位を知る方位磁石は最古の磁気センサともいえますが、電磁気学が生まれた19世紀以降、さまざまなタイプの磁気センサが開発されてきました。磁気センサは原理や感度、温度特性などにより、用途に応じて使い分けられています。

たとえば、サーチコイルはコイルの電磁誘導を利用したもので、ハンディな金属探知機や空港のセキュリティゲートほか、非破壊検査などでも利用されています。もっとも高感度なものは、超電導材料を利用した「SQUID(超電導量子干渉素子)」で、微弱な心磁界・脳磁界の測定も可能にします。

家電機器やOA機器、FA機器、車載機器などでもっとも多く使われているのは「ホールセンサ」と「MRセンサ」です。本記事では、角度検出、位置検出などとして活躍しているホールセンサについて解説します。

MRセンサは、強磁性体薄膜の磁気抵抗効果(MR)を利用した磁気センサ。TDKのGMRセンサやTMRセンサは、SQUID領域に迫る高感度な磁気センサで、生体磁気センサとしても応用されている。(https://product.tdk.com/ja/techlibrary/developing/bio-sensor/index.html)

電流磁気効果の一種であるホール効果を利用

ホールセンサの原理を簡単に説明します。磁界中の導体(半導体や金属)に電流を流すと、電流と磁界の双方に垂直な方向に電圧が誘起されます。これは1879年、米国の物理学者E・H・ホールが発見した現象で、ホール効果(Hall effect)と呼ばれています。

ホール効果が発見された当時は、まだ電子の存在は確認されていませんでしたが、のちに磁界中で運動する電子には、ローレンツ力が作用して運動方向が曲げられ、導体内部に電位勾配が発生して、それが電圧(ホール電圧)として観測されると説明されるようになりました。

磁界中の電子の運動方向がローレンツ力により曲げられ、ホール電圧が発生する。

フレミングの左手の法則とローレンツ力

電磁気学の初歩で登場する有名な「フレミングの左手の法則」は、もともとこのローレンツ力の向きを知るために考案された暗記法です。親指、人差し指、中指をそれぞれ直角になるように向け、人差し指の方向を磁界、中指の方向を電流とすると、親指は電磁力の方向となります。プラス(+)からマイナス(-)に流れると定義される電流方向と、マイナス(-)の電荷をもつ電子の運動方向は逆向きになるので、電磁力もローレンツ力も根本的に同じものです。

電流方向と電子の運動方向は逆向きになることに注意。

信号回路も一体化して製造できるシリコン系ホール素子

ホールセンサは素子材料の違いにより、化合物半導体(InSb、GaAs、InAsなど)系とシリコン系に大別されます。ホール電圧は微弱なため、一般にオペアンプなどによって増幅処理されます。このため、化合物半導体系のホールセンサの場合、センサ素子とオペアンプなどのシリコンICとの2チップ構成となります。

一方、シリコン系のホールセンサは、化合物半導体系よりも感度は低いものの、LSIなどの半導体技術の応用により、同じシリコンウェハ上にセンサ素子とともにオペアンプや信号処理回路、メモリなどをひとつのチップにまとめて作り込めるのが大きなメリットとなっています。

本記事で対象としているのは、このシリコン系のホールセンサです。小型で信頼性や価格面に優れ、また感度やオフセット(出力電圧の誤差)の調整、温度特性の補償が可能など、きわめて使い勝手に優れるため、角度センサや回転センサ、位置センサ(ポジションセンサ)として多用されています。

累計出荷個数が50億個以上、TDKミクロナスのホールセンサ

ホールセンサは、シリコンウェハ上に蒸着やスパッタリング、エッチングなどで半導体薄膜や電極、IC回路などを一体形成し、ダイシングによりチップ(センサ・ダイ)に切断してからリードや端子を取り付けてパッケージングされます。製品サイズは数mm角の小さな磁気センサです。

TDKのグループ会社であるTDKミクロナスは、LSI製造のCMOSテクノロジーによるホールセンサのパイオニアであり、各種ホールセンサおよび関連製品をMicronasブランドで提供しています(TDKミクロナスはドイツ南西部のフライブルクを本拠地とするホールセンサのリーディングカンパニー。累計出荷個数は50億個以上にのぼります)。

シリコン系ホールセンサは、センサ素子と処理回路、メモリなどをウエハ上に一体形成できる。

ホールセンサによる角度検出とストローク検出

磁界は大きさと方向をもったベクトル量であり、磁界の強さ[A/m]は磁束密度[Wb/m2=T]に比例します。このため、ホール素子による磁界の強さの測定は、位置や角度によって異なってきます。

ホールセンサは一般にマグネットと組み合わせて使用され、主な検出動作としては、回転するマグネットに対する角度検出と、往復運動をするマグネットに対するストローク検出があります。角度検出は角度センサや回転センサとして、またストローク検出は位置センサなどとして利用されます。静磁場の大きさや磁極方向も検知できるのはホールセンサの大きな特長で、磁極センサとしても利用できます

ホールセンサは一般にマグネットと組み合わせて利用される。

ブラシレスDCモータのキーパーツ

ホールセンサはブラシレスDCモータのキーパーツとして使用されています。ブラシレスDCモータにおいて、ホールセンサはマグネットロータの磁界の大きさを検出して、正確な回転位置を計測します。通常のDCモータのように整流子やブラシなどの接点がないため、きわめて長寿命で高効率、電気的ノイズも発生しない高性能モータとなります。家電機器やOA機器、車載モータなどで活躍しています。

ホールセンサがマグネットロータの磁界を検知し、これを処理回路によって制御してステータコイルに回転磁界を発生させてロータを回転させる。

Micronasブランドで提供するTDKのホールセンサ製品

TDKはMicronasブランドで以下のようなホールセンサおよび関連製品を提供しています。

●ホールスイッチ
設定された磁界の強さを閾(しきい)値として、ハイ/ローを切り替えてスイッチング出力します。
【主な用途】開閉スイッチ、ブラシレスDCモータの転流用・回転位置の検出用など。

●リニアホールセンサ
出力電圧をIC処理でリニア出力したものをリニアホールセンサ(リニアホールIC)といい、次のようなタイプがあります。
1Dホールセンサ:90°または180°までの回転角度やストロークの検出、電流測定など。 【主な用途】自動車の各種ペダルの回転角度検出、ステアリングトルクの検出など。
2D/3Dホールセンサ:2Dホールセンサは360°の角度情報や位置情報、3Dホールセンサでは3次元の角度情報や位置情報などを検出できます。
【主な用途】自動車の各種ペダルの回転角度やストローク位置検出用、シフトレバーの位置検出用など。

●組み込み用マイクロコントローラ
モータ制御において、ホールセンサやホールスイッチは、信号処理ICであるマイクロコントローラとセットとして回路が構成されます。
【主な用途】ブラシ付きDCモータ、ブラシレスDCモータ、ステッパ(半導体露光装置)などの駆動制御用など。

X-By-Wire時代の自動車に向けた3Dホールセンサ
近年、カーエレクトロニクスの進展とともに、車載用センサの需要が急速に拡大しています。なかでも、パワートレイン系やボディ系、シャーシ系においては、各種ペダルやバルブ、シフトレバーなどの位置検出を担うポジションセンサが多用されようになりました。また、こうした自動車の制御システムにおいては、従来の機械式から電子制御に置き換えるバイ・ワイヤ(X-By-Wire)方式の導入が進行しており、小型・高性能の2D/3Dホールセンサが求められています。

車載用の位置センサ、角度センサなどしての需要が拡大している。

3D磁界・ストローク・360°角度の高精度計測を実現

ホールセンサは基本的にチップ面に垂直(Z軸)な方向の磁界を検出しますが、磁界を2次元や3次元のベクトル量(磁束密度の大きさと方向)として計測するのが2Dホールセンサや3Dホールセンサです。

TDKミクロナスの3DホールセンサHAL39xyは、複数のホールセンサで構成したホールプレートアレイにより、X軸・Y軸・Z軸の3軸(3D)の磁界をきわめて高精度に計測できるように設計された製品。3Dの磁界計測ばかりでなく、ストローク位置検出や360°の回転角度検出など、ソフトウエアの切り替えにより4つの計測をパラメトリックに可能にする先進の3Dホールセンサです。

たとえば、3Dホールセンサをシフト・バイ・ワイヤに採用することで、シフトレバーに連結した機械的部品が不要になるとともに、シフトレバーそのものもジョイスティックのような小型のものですむようになります。ただし、シフトレバーを小型にすると、操作角も小さくなり、より高精度な位置センサが必要となります。このため、3DホールセンサHAL39xyはシフト・バイ・ワイヤに最適なパフォーマンスを発揮します。また、外部磁界の補正機能も搭載しているので、磁気シールド部材も必要なく、使用するマグネットも安価なものですむなど、コストメリットももたらす3Dホールセンサです。

シフトレバーの操作に応じて磁石が前後左右に動き、その磁界の変化(磁束密度と向き)を3次元で検出して電気信号をECUに送る。

さらなるセンサソリューション・ビジネスを推進

ホールセンサは小型・低価格・高信頼性で最も汎用性の高い磁気センサです。家電機器・OA機器・FA機器ばかりでなく、自動車のさらなる安全・省エネ・快適走行に向け、位置センサや角度センサとしての需要が拡大しています。TDKミクロナスはLSI製造プロセスであるCMOSテクノロジーを駆使したシリコン系ホールセンサのパイオニアであり、世界的なリーディングメーカーです。TDKのHDDヘッド技術を応用展開した高感度なTMRセンサなどと組み合わせたセンサソリューションなど、独自の磁気センシング技術を生かして、多様な市場ニーズにフレキシブルに対応してまいります。

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