TDKのコアテクノロジー

Vol.10
ワイヤレス給電システムと「製品設計技術」

2021.12.24

非接触でバッテリを充電できるワイヤレス給電の利用が、スマートフォンなどのモバイル端末はじめ、xEV(電気自動車等)や産業機器などにも広がっています。ワイヤレス給電には各種方式がありますが、主流はコイルどうしの磁界結合を利用した「電磁誘導式」と「磁界共鳴式」です。とりわけ磁界共鳴式は、従来の電磁誘導式の限界をブレイクスルーした新方式として熱い注目を集めています。コイルや回路の設計技術、電源技術など、TDKのコアテクノロジーを結集した先進のワイヤレス給電システムをご紹介します。

ワイヤレス給電の方式

ワイヤレス給電は放射型と非放射型に大別されます。長距離のワイヤレス給電を可能にするのは電波やレーザ光などを利用する放射型です。宇宙空間に巨大なソーラーパネルを建設し、マイクロ波で地上へ電力伝送する宇宙太陽光発電という壮大な構想もあります。また、飛行中のドローンへのワイヤレス給電なども実験されていますが、放射型は基本的に伝送効率が低いのが短所です。

このため、伝送距離が短いものの伝送効率が高く、装置も簡単なものですむ電磁誘導式のワイヤレス給電が、電気シェーバや電動歯ブラシ、コードレス電話などのバッテリ充電に利用されてきました。ワイヤレス給電の可能性を大きく広げたのは、2006年、米国マサチューセッツ工科大学で発表された「磁界共鳴式」と呼ばれる新方式です。1mの距離で60Wの電力を約90%という高い伝送効率で送電する実験に成功して、世界中の技術者を驚かせました。

磁界結合式は高周波の変動磁界、電界結合式は高周波の変動電界を利用したシステム。

ワイヤレス給電の各方式の伝送距離・伝送電力・伝送効率の比較を以下に示します。小電力から大電力までカバーし、1m程度までの伝送距離かつ比較的高い伝送効率を実現できるのは、磁界共鳴式であることがわかります。

RFIDシステムとワイヤレス給電の違い

磁界結合を原理とするワイヤレス給電は、高周波の変動磁界を送電コイルから受電コイルに伝えることで電力を伝送します。非接触ICカードやICタグなどに利用され、電磁誘導式や電波式があるRFID(Radio Frequency Identification)システムと同じ原理です。

しかし、微弱な信号(情報)を伝送するRFIDシステムと違って、ワイヤレス給電はできるだけ大きなエネルギーを効率よく伝送するのが目的です。新方式である磁界共鳴式に大きな期待がかけられるのもこのためです。

磁界共鳴式は、従来の電磁誘導式とまったく別の原理によるものではなく、電磁誘導式の特殊なタイプと考えられています。その違いは、コイル(L)とコンデンサ(C)によるLC共振を積極的に利用していることによるものです。

電磁誘導式の原理

まず、最も基本的な電磁誘導式のワイヤレス給電の原理から説明します。送電コイルと受電コイルの2つのコイルを対向させ、送電側のコイルに流れる電流が変化すると、発生する磁束に変化が起き、受電側のコイルに起電力が生まれて誘導電流が流れます。イギリスの物理学者ファラデーが発見した電磁誘導における相互誘導という現象で、現在、スマートフォンのバッテリを充電するQi(チー)方式のワイヤレス充電器(充電パッドなど)に利用されています。

電磁誘導式は原理や装置がシンプルで、低コストでシステムを実現できるのがメリットです。しかし、高い伝送効率を確保できる伝送距離が短く(スマートフォンなどでは数mm程度)、また送電コイルと受電コイルが位置ずれを起こしたりすると伝送効率が急激に低下してしまいます。これは磁束の一部が漏れ磁束となり、コイルどうしの磁気結合の度合が小さくなってしまうからです。

電磁誘導式においては、コイル間距離が大きくなるにつれ、漏れ磁束が増えて伝送効率が急激に低下する。

電磁誘導式の短所を克服する新方式として登場したのが磁界共鳴式です。送電側と受電側のコイルにコンデンサを挿入してLC共振回路を形成し、送電側と受電側の磁気結合の度合を強めています。

送電側および受電側の回路にコンデンサを挿入して、LC共振回路を形成する。

コイルとコンデンサの相反する性質を利用したLC共振回路

磁界共鳴式の技術の核心であるLC共振回路について説明します。交流電流に対する回路の抵抗のことをインピーダンスといいます。コイルやコンデンサのインピーダンスは周波数によって変化します。コイルは直流電流をスムーズに通しますが、交流電流は周波数が高いほど通しにくく、逆にコンデンサは直流電流を通さないものの、交流電流は周波数が高くなるほど通しやすいという性質があります。この相反する性質をもつコイルとコンデンサを組み合わせたのがLC共振回路です。

たとえば、コイルとコンデンサを直列接続した回路(直列LC共振回路)に交流電流を流すと、面白い現象が起こります。低い周波数成分はコンデンサによって通過が阻止され、逆に高い周波数成分はコイルによって通過が阻止されますが、中間領域にコイルとコンデンサのインピーダンスが相殺される周波数が現れます。これを共振周波数といいます。

コイルとコンデンサを直列接続したLC共振回路は、共振周波数でインピーダンス(抵抗)は極小となる。並列接続の場合は、逆にインピーダンスは極大となる。

共振周波数においてコイルとコンデンサはエネルギーを授受する

電気エネルギーは、コンデンサに電界として蓄えられたり、コイルに磁界として蓄えられたりします。LC共振回路は、コイルとコンデンサがキャッチボールのように交互にエネルギーを授受して、共振周波数の周期で振動(共振)します。LC共振回路(直列)においては、共振周波数においてインピーダンスが極小(理論的にはゼロ)となり、その周波数の交流をスムーズに通過させることになります。

LC共振回路はラジオや通信機の同調回路としても利用されています。共振とは同調であると考えると、磁界共振式のワイヤレス給電の原理が理解しやすくなるでしょう。つまり、送電側と受電側のLC共振回路の共振周波数を一致させる(同調させる)ことで、電力は効率よく伝えられるようになるのです。これが磁界共鳴式の基本原理です。

産業機器向け1kWワイヤレス給電システム

TDKが産業機器向けに開発した磁界共鳴式の1kWワイヤレス給電システム(WPX1000TDK-Lambdaブランド)の構成を以下に示します。

産業機器用ワイヤレス給電システムは、無人搬送車(AGV)における頻繁なバッテリ交換の手間を省くとともに、クリーンルームのクリーン度を保つためにも効果的。

FA工場の生産ラインや物流倉庫などでは、コンピュータ制御されたバッテリ駆動の無人搬送車(AGV:Automatic Guided Vehicle)が、物品の搬送に多用されています。しかし、従来の人手による頻繁なバッテリ充電(あるいは交換)は非効率であるとともに、クリーンルームなどではクリーン度を低下させる要因にもなります。そこで、こうした問題のソリューションとしてTDKが開発したのが、産業機器向け1kWワイヤレス給電システムです。

コアテクノロジーを結集したTDKのワイヤレス給電システム

コイル技術や磁性材料技術、パワーエレクトロニクス技術など、コアテクノロジーと先進技術を結集して開発されたのがTDKのワイヤレス給電システムです。

たとえば、送電/受電コイルにおいては、形状や大きさ、巻き方などに高度な技術とノウハウが求められます。インダクタンス(コイルの能力の大きさ)を高めるために巻数を多くすると、抵抗(銅損)が増加して伝送効率が低下するといった問題があるからです。

コイルのコア材の特性も伝送効率に大きく関係します。TDKは広い温度範囲で低コアロス特性を保つフェライト(PC95材)を採用するなど、得意とする磁性技術を生かして内部消費電力の低減を実現しています。また、漏れ磁束による外部への影響(発熱やノイズなど)を低減するための磁気回路技術やEMC対策技術(磁気シールド技術など)も駆使されています。

磁界共鳴式の送電側のアンプユニットや受電ユニットの小型・軽量・高効率化には、スイッチング電源で培ったパワーエレクトロニクス技術が投入されています。また、磁界共鳴式で使われるコンデンサには高電圧が加わるため、耐電圧特性のすぐれたコンデンサが必要です。TDKはLC共振回路用として、高信頼性のフィルムコンデンサやMLCC(積層セラミックチップコンデンサ)など、ワイヤレス給電に最適な各種部品も豊富に取り揃えています。

バッテリ技術との連携によりワイヤレス給電の可能性を拡大

TDKは、スマートフォンをはじめとするモバイル機器やウェアラブル端末などの小電力のワイヤレス給電システムから、産業機器向けの中電力、EV向けの大電力までカバーする多彩なポートフォリオにより、ワイヤレス給電の普及と発展に大きく貢献しています。

産業機器向けシステムでは、無人搬送車などに向けた1kWタイプを量産中のほか、小型ロボットなどに最適な200Wタイプ、回転体やロボットアームや監視カメラなどの回転体にも対応した50Wタイプなども開発中です。

ワイヤレス給電システムでは、充電対象となるバッテリも重要です。TDKは用途に応じた高性能バッテリの開発とともに、走行中のEVへのワイヤレス給電といった先進技術についても積極的に取り組んでいます。TDKのワイヤレス給電のこれからにご期待ください。

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