TDKのコアテクノロジー

Vol.8
超音波センサと「製品設計技術」

2021.10.15

夜行性で暗闇の中を飛行するコウモリは、障害物や仲間と衝突することなく、蛾(ガ)などの昆虫をたくみに捕食することで知られています。これは自ら発する超音波のエコー(反射波)を検知して、対象物までの距離をリアルタイムで把握しているからです。エコーロケーション(反響定位)と呼ばれるこの能力と似た原理に基づく距離センサが、圧電素子を用いた超音波センサです。TDKの超音波センサは、MEMS技術をベースとした超小型・低消費電力タイプ。IoTデバイスやウェアラブルデバイス、AR/VR(拡張現実/仮想現実)、ドローン、ロボティクス、自動車や産業機器など、近距離の測距システムとして、すぐれたパフォーマンスを発揮します。

さまざまな距離センサ

非接触で対象物までの距離を計測する距離センサ(測距センサ)は、パッシブ方式とアクティブ方式があります。周囲の物理量(光や音など)をセンサで検知して対象物までの距離を算出するのがパッシブ方式。たとえば、ステレオカメラは2台のカメラの視差(視点からの対象物までの角度差)を利用し、三角測量の原理で距離を計測します。しかし、暗闇や無音響の環境では、対象物の存在を検知できません。そこで、自ら何らかの信号を発して、対象物で反射してくる信号を検知して距離を算出するのがアクティブ方式です。アクティブ方式の主な距離センサとしては、光学式、電波式、超音波式があります。

磁界や電界を利用したパッシブな距離センサ(電磁誘導式や静電容量式など)は、至近距離の対象物を検知・測距する「近接センサ」として利用されている。

自動車の安全・自動運転にも距離センサが不可欠

最近の自動車には、安全運転や自動運転のため、車載カメラのほかに、各種のアクティブな距離センサが多数搭載されるようになりました。
たとえば、自動運転のキーテクノロジーとなる、対象物の形状や距離を測定するデバイスの「LiDAR(ライダー)」ではレーザ光(赤外線)が、ミリ波レーダーでは電波(波長1~10mm)が、バックセンサやコーナーセンサ(後退時や車庫入れ時の障害物検知)などでは超音波が利用されています。

これらの方式にはいずれも長所と短所があり、目的に応じて使い分けられています。光学式は解像度にすぐれ、電波式はより遠方の対象物まで検知できるのが長所ですが、レンズやアンテナなどを必要とするため小型化が困難で、装置も複雑になります。また光学式は透明な物質や直射日光下、霧などの悪天候下での対象物の検知が困難という弱点をかかえています。
一方、超音波式はこうした問題を回避でき、原理も装置もシンプルなため、低コストでシステムを実現できるメリットがあります。このため、自動車ほか、ドローンやロボット、OA機器や家電機器などの距離センサなどとして使用されています。

近距離の測定に適した超音波センサ

超音波とは、人間の耳で聴くことのできる周波数帯(約20~20,000Hz)以上の音波のことです。人の耳の可聴域には個人差があり、高齢者などでは虫の音などの高音が聞こえにくくなったりします。
聴覚は人間よりも動物のほうが発達していて、コウモリばかりでなく、イヌやネコ、ネズミなど、超音波が可聴周波数となっている動物は珍しくありません。たとえば、イヌに合図を送る犬笛(ドッグホイッスル)の周波数は約30,000Hzで、人間には聞こえないものの、イヌには聞こえる超音波を利用しています。また、昆虫の蛾(ガ)が超音波の可聴域をもっているのは、天敵であるコウモリが発する超音波を検知して身を守るためといわれています。

超音波は空気中より水中のほうが速く伝わる。イルカは水中で超音波の音を発して、仲間とコミュニケーションをとっている。

音波は周波数が高くなるほど減衰しやすく、遠くまで届きにくいという性質があります。太鼓や海なり、遠雷などの低く鈍い音が遠くまで届くのは、高い周波数成分が減衰して、低い周波数成分が強く聞こえるからです。一方で、音波は周波数が高くなるほど、指向性(直進しやすさ)が高くなる性質があり、光が鏡で反射するように、超音波の反射波(エコー)は発信源に戻りやすくなります。
このため、超音波は光や電波のように遠方の対象物を検出することは苦手ですが、至近距離から中距離(10m程度)までの対象物の検知や距離測定を得意とします。

往復時間から距離を算出するToF(飛行時間)方式

超音波センサによる距離測定の原理を簡単に説明します。
「ヤッホー!」と発した声が山で反射して、こだま(エコー)として戻るまでに時間差があります。音波は空気中で約340m/秒の速度で伝わります。こだまは山までの距離を往復して戻ってくる音波なので、その時間×速度の半分が距離となります。たとえば、こだまが10秒で戻れば、山までの距離は約1,700mということになります。
コウモリも口や鼻から発した超音波が、対象物で反射して戻る時間から、対象物までの距離を検知します。このような測距方式は、「ToF(time of flight):飛行時間」型と呼ばれます。瞬時に反射して戻る光や電波と違って、超音波はわずかながら時間差があるので、かえって距離計測が簡単というメリットもあります。

超音波センサは、ある時間幅をもつパルス状の超音波(バースト波)を送信し、その反射波(エコー)を受信する。
超音波センサは送信(Tx)機能と受信(Rx)機能を兼ね備えているが、距離センサとしては一般に送信用と受信用の2個をセットとして用いる。

高周波パルスによる圧電体の超音波振動を利用

従来、使用されてきた一般的な超音波センサの構造を下図に示します。円筒形の金属ケースの中には、支持体に据えられた圧電振動子とラッパ型のコーン(共振器)が収められています。
外力を加えると電圧を発生し(圧電効果)、逆に電圧を加えると外形が歪む性質(逆圧電効果)をもつ物質を圧電体といいます。圧電振動子は圧電セラミックス板と金属板を貼り合わせた素子で、両端子に差動パルスを加えると伸縮を繰り返して金属板が振動して発音体となり(圧電ブザーの原理)、可聴周波数以上の高周波パルスを加えると超音波を発生します。ラッパ型のコーンは、超音波に指向性を持たせ、空気中に放出させるとともに、受信時には対象物から戻ってくる超音波を圧電振動子の中央部に集めるための共振器として機能します。

このタイプの超音波センサは、掃除ロボットや自動車のバックセンサやコーナーセンサなどに使用されている。

驚異的な小型化を実現したTDKのMEMS超音波センサ

従来型の超音波センサは、圧電振動子やコーンなどの部材を組み立てたアセンブリ品であり、小型化に限界があります。
そこで、超音波の発生機構をMEMS(微小電気機械システム)技術で形成し、従来型と比較して体積が約1,000分の1という驚異的な小型化を実現したのが、TDKのMEMS超音波センサです(MEMSとは半導体製造技術を応用して、シリコンウエハ上に微細な可動構造などを形成する技術です。詳しくは、本シリーズVol.5「MEMS技術と小型マイクロフォン」をご参照ください)。
TDKの超音波センサは、MEMSチップを用いたToF(飛行時間)型の距離センサです。3.5×3.5×1.25mmの小型ケースの中に、PMUT(Piezoelectric Micromachined Ultrasonic Transducer:圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ)と信号処理をになうASICなどがコンパクトにパッケージングされています。

TDKのMEMS超音波センサの外観とその基本構造を下図に示します。

TDKの超音波センサはグループ会社Chirp Microsystemsが開発したMEMSベースのToF(飛行時間)型センサです。

MEMS技術と製品設計技術のコラボレーション

TDKの超音波センサには、先進のMEMS技術はじめ、独自アルゴリズムのDSP(デジタルシグナルプロセッサ)などによる信号処理回路、さらには小型モジュール技術やパッケージング技術など、TDKのコアテクノロジーである「製品設計技術」を駆使した革新的な製品です。低消費電力と超小型という特長により、バッテリ駆動するIoTデバイスやウェアラブルデバイスなど、さまざまなアプリケーションに期待できます。
たとえば、AR/VRへの応用もその一つ。下図のようにHMD(ヘッドマウントディスプレイ)とコントローラ側に超音波センサをそれぞれ3個ずつ搭載し、センサ間でほぼリアルタイムの距離測定を行うことで、6DoF(6自由度:前後左右と上下の直線的な動きに加え、3軸の回転の動き)の高精度な3D位置追跡を可能にします。これにより身体の動きに応じてHMDの映像が遅延なく追随できるようになり、AR/VRのパフォーマンスを大きく高め、よりリアルな体験が可能になります。

HMD(ヘッドマウントディスプレイ)とコントローラを近距離無線通信(2.4GHz)で結び、双方に搭載した複数の超音波センサにより、相互の距離検出、対象物の存在・近接検知、3D位置追跡などを実現する。

応用製品開発に便利な「超音波ToFセンサモジュール」

TDKは測定範囲1mの超音波センサCH-101に続き、ほぼ室内空間全体をカバーできる測定範囲5mのCH-201を製品化。また、MEMS超音波センサを小型PCBボードに一体化させた「超音波ToFセンサモジュール」も提供しています。このセンサモジュールはプロトタイピング(実用化に向けた試作品づくり)や小規模生産などに最適で、超音波センサのアプリケーションの可能性を大きく広げます。
ちなみに、TDKの超音波センサは周波数175kHz前後の超音波を用いています。イヌやネコなどの可聴周波数範囲(数10~100kHz程度)をはるかに超えているので、ペットたちに不快な影響を与えることはありません。

約6,000種といわれる哺乳類において、コウモリはネズミに次いで最も繁栄している野生動物です。コウモリが進化の過程で夜行性と飛行性という行動様式を選んだのは、天敵に襲われにくいことと、餌の捕食において昼行性の鳥類と競合しないためといわれます。その結果、ToF(飛行時間)型の超音波によるエコーロケーションという優れた能力を獲得しました。いわば、生物界のニッチで大成功を収めた生物。エレクトロニクス機器のさらなる進化のヒントにもなりそうです。

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