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やり投げの正しい投げ方と投てき距離が伸びるやり投げの仕組みを詳しく解説

やり投げの競技用やりの規格

やり投げは、古代オリンピックの五種競技(短距離走、幅跳び、円盤投げ、やり投げ、レスリング)の一つになっていた伝統的な種目で、英語では“Javelin throw”といいます。ジャベリン(Javelin)とは、走りながら勢いをつけて投げる古くからの狩猟用の道具に由来します。
現在の競技用のやりの規格は、以下のように定められています。材料は金属(ジュラルミンやスチール)が主流で、金属とCFRP(カーボン繊維強化プラスチック)との複合材料のものも使われます。長いわりには意外と軽く、男子用が800g、女子用が600gです。

やり投げは投てき競技の中で最も飛距離が大きい競技

サークル内から投てきするハンマー投げや円盤投げ、砲丸投げと異なり、やり投げは約30mの助走路で加速しながら、やりを握った腕を振り切って投てきします(回転投法は禁止されています)。競技場中央の多目的芝生に引かれた角度29°の扇形の内部が投てきエリアで、スターティングライン(踏み切り線)から投てきエリア内に着地したやりの穂先までの距離が記録となります(穂先以外が先に着地した場合は無効となります)。競技では3回投てきして最も遠くまで飛んだ距離が記録となります。

やり投げの世界記録が伸びすぎてやり投げのルール改正

男子やり投げの公式の世界記録は98m48(J.ゼレズニー選手、1996年)です。実は1984年に100m超えの驚異的な記録(U.ホーン選手、104.80m)が達成されています。しかし、これ以上、飛距離が伸び続けると他の競技に支障をきたし、また危険でもあるため、1986年にルールが改訂され、やりの重心位置が4cm前方にずらされ、これによって飛距離は100m以内におさまるようになりました(現在の公認世界記録は、男子は1986年以降、女子は1999年以降のものです)。
新ルール後の男子やり投げ世界記録10傑の推移を以下に示します。J.ゼレズニー選手の98m48が傑出していますが、2020年には世界記録に迫る97m76という記録がJ.フェッター選手により達成されました。2022年7月に開催予定の第18回世界陸上競技選手権(オレゴン22)では、20年以上にわたって破られていない世界記録の更新に大きな期待が寄せられています。

やり投げ女子の世界記録と記録推移

女子やり投げ世界記録10傑の推移を以下に示します。新ルール後の世界記録は72m28(B.シュポタコバ選手、2008年)ですが、70m超えは全部で5記録もあり、いつ誰が初の73m超えを達成するかが注目されています。

やり投げの投てき距離が伸びる要因

やり投げの飛距離に関係する主な要因として、次のようなものがあります。
●助走とフォーム
●リリースのタイミング
●空気の揚力

鉄球とやりを同じ初速度と角度で投げくらべた場合、鉄球を投げたときの滞空時間より、やりを投げたときの滞空時間が長くなり、飛距離も伸びます。これは空気の揚力が作用するためです。以下の図は、投げられたやりの飛跡を視覚化したものです。緑色の点線は、鉄球を投げたときの放物線です。やりの飛跡は後半に大きく伸びていることがわかります。紙飛行機を飛ばしたとき、当初は勢いよく空中に飛翔し、後半はゆっくり滑空するのに似ています。

やり投げのリリースフォームとタイミング

やり投げの飛距離に大きく影響するのは、リリースのフォームとタイミングです。助走でスピードを増してから、ジャンプして、まず右足を接地し、続いて全身を弓なりに曲げつつ左足も接地して踏ん張り、勢いよく右腕を振り切ってやりをリリースします(右手投げの場合)。この投げ動作の時間は約0.4秒ほどです。
加速度センサを取り付けたやりを用いた投てき実験と解析によると、以下のグラフのように、リリース前の約0.1秒でやりに加わる加速度は急激に上昇し、加速度曲線の最高値が高いほど飛距離が伸びます。したがって、助走で蓄えられた運動エネルギーと筋肉エネルギーの双方を無駄なくやりに移すフォームとリリースのタイミングがポイントとなります。

やり投げの理想的な“迎え角”は?

リリースするときのやりの角度は、空気の揚力に深く関係しています。下図のように、リリースした瞬間のやりの姿勢角と投射角(飛行方向)の差を迎え角といいます。迎え角が大きすぎればすぐに失速し、また、迎え角が小さすぎれば揚力の働きも小さくなり、ともに飛距離が伸びません。このため、風向きも考慮に入れた最適な迎え角でリリースすることが重要になります。

やりのたわみや振動も、飛距離に微妙に関わります。やりは適度のしなやかさがあるほうが投げやすく、リリース後にたわみ振動が速やかに減衰するほうが飛距離は伸びるといわれます。
やりの寸法や形状、重量、重心位置などは細かく規定されていますが、内部構造や質量分布までは定められていません。たわみや振動が飛距離にもたらす影響はまだ十分に研究されていず、やりの材料や設計しだいでは、100m超えも夢ではないでしょう。

スポーツ科学をサポートするTDKの製品・技術――MEMSモーションセンサ

たわみや振動を利用したセンサに、モーションセンサと呼ばれるものがあります。人間の感覚には、いわゆる五感(視覚・聴覚・臭覚・味覚・触覚)のほかに、動作や姿勢などを検知する運動感覚があります。自動車に乗っているとき、目をつむっていても発進や制動、カーブやスロープなどを体感できるのもこのためです。この運動感覚に対応するのがモーションセンサです。
MEMSモーションセンサは、半導体プロセスの微細加工技術を応用したMEMS(微小電気機械システム)工法によって製造される加速度センサとジャイロセンサ(角速度センサ)を組み合わせた複合センサです。
いずれもシリコン基板上に支えられた振動子と、くし形の可動電極および固定電極で構成されます。たとえば、MEMS加速度センサは、加速度が加わったときの振動子の“たわみ”による電極間の静電容量の変化を検知して加速度を算出します。これはコンデンサマイクにも応用されている静電容量方式という原理です。MEMS加速度センサの基本原理を以下に示します(図は簡略化したもので、実際の構造はもっと複雑です)。

TDKのIMU(イナーシャル・メジャーメント・ユニット)は、MEMS加速度センサとMEMSジャイロセンサを一体化した小型・高性能のモーションセンサです。3軸加速度センサと3軸ジャイロセンサからなる6軸IMU、気圧センサを組み合わせた7軸IMU、3軸磁気センサ(電子コンパス)を組み合わせた9軸IMUなど、多彩な製品を提供しており、ドローンやカーナビゲーションシステムなどに多用されています。

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