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[第5回 フィギュアスケート&HDD用ヘッド]  研ぎ澄まされたスピンのテクニック

過去の記事を整理・一部リライトして再掲載したものです。 古い技術情報や、 現在、TDKで扱っていない製品情報なども含まれています。

銀盤に繰り広げられる目くるめく演技。フィギュアスケートはウインタースポーツの華。トリノオリンピックでの荒川静香の金メダルに続き、安藤美姫、浅田真央など、2006年のグランプリシリーズでの日本選手の活躍ぶりも目覚しい。2007年の世界選手権大会の開催地は東京ともあって、フィギュアスケートからますます目が離せない。ジャンプやスピンの種類を知っておくだけでも観戦の面白さは倍増する。

ダイナミックなジャンプとともに、身体を独楽(コマ)のように高速回転させるスピンも美しい。しかし、外部からエネルギーを得ていないのに、途中からスピンの回転速度が増すのはなぜか?フィギュアスケートの演技には力学が巧みに応用されている。

ジャンプの種類を見分けるにはコツがある

靴と鉄製のブレード(刃)を一体化させたスケート靴が考案されたのはオランダである。オランダでは国内に張り巡らされた運河が冬には凍りつき、そのまま天然のスケートリンクとなる。古くは冬の交通手段として用いられ、やがて速さを競うスピードスケートや滑りの優美さを競うフィギュアスケートが生まれ、17世紀頃から各国に広まっていった。  

ステップ、ジャンプ、スピンをフィギュアスケートの要素という。競技に出場する選手は自分の選んだ音楽にあわせ、これらの要素をバランスよく組み合わせて滑走する。採点の比重が大きいため、選手がとくに力を入れるのはジャンプだ。ジャンプには6つの種類があり、難易度や空中での回転数によって採点が異なる。テレビの解説者がよく口にするアクセル、ルッツ、サルコウなどのジャンプ名の多くは、最初に演じた選手名にちなむ。  

ジャンプの種類を見分けるコツは、まず前向き姿勢からのジャンプか、後ろ向き姿勢からのジャンプかに注目すること。前向き姿勢から跳ぶのは、最も難度の高いアクセル・ジャンプだ。女子では1988年に伊藤みどりが公式試合で世界初のトリプルアクセルを演じた。フィギュアスケート靴はブレードのトウ(つま先)にギザギザがついているのが特徴だ。踏み切るときに、このトウを使ってジャンプするのはルッツやフリップ、トゥループだ。女子で世界初となった安藤美姫選手の4回転ジャンプ(2002年)はトウを使わないサルコウジャンプである。

スピンの回転数がしだいに増すのはなぜか

ジャンプとともにファンを魅了するのは、独楽(コマ)のように高速回転するスピンだ。静止状態にあるブロックのような剛体は、いつまでも静止したままだが、フィギュアスケートにおいては静止状態からスピンを始めることもできる。上半身をひねって下半身にその反動の逆転運動をつくり、両腕を大きく水平に振ってスピンを得るのだ。片脚を伸ばして腰を低くした状態からスピンを開始するとき、伸ばした脚や腕を縮めながら立ち上がると回転速度が増す。これは力学の角運動量の保存則にのっとった運動だ。ジャンプ回転においても、目を凝らせば踏み切り直後に腕を縮めて、回転を速めていることがわかるはずだ。  

角運動量というのは回転する物体のもつ運動エネルギーのことである。角運動量は慣性モーメントと回転速度である角速度の積で表される。外部から力が加わらないかぎり、角運動量は一定であるというのが角運動量の保存則である。このため、伸ばした脚や腕を回転軸のほうへ寄せると慣性モーメントは小さくなるが、角運動量の保存則により、角速度のほうは大きくなって回転は速まる。スピン状態から演技を終えるとき、両手や脚を広げたポーズをとるのは、逆に慣性モーメントを大きくして回転を弱めるためだ。床の上のバレエとちがって、氷上をブレードで滑るスケートは摩擦が極端に小さい。フィギュアスケートの美は、力学をたくみに応用した無駄のない身のこなしから生まれてくるのだ。

電子のスピンをたくみに利用したHDD用ヘッド

電子は自転運動に似た高速回転をしているため、微細な磁石としての性質をもつ。これを電子のスピンという。磁性体の磁化とは電子のスピンの向きが同じ方向にそろう現象だ。現代のエレクトロニクスはこの電子のスピンをたくみに利用するまで進歩を遂げている。これをスピンエレクトロニクスといい、HDDの磁気ヘッド技術はその先端分野の1つだ。  

HDD用再生ヘッドの現在の主流はGMRヘッドである。薄膜プロセス技術によって製造される多層薄膜構造の素子で、磁気メディアからの漏れ磁束によって、フリー層(自由磁化層)の磁化方向の角度が変わると、大きな抵抗変化を示す現象(巨大磁気抵抗効果=GMR効果)を利用している。しかし、従来型のGMRヘッドではHDDの高記録密度化への対応に限界が生じてきた。そこで新世代のヘッドとして開発されたのが、薄い絶縁障壁層(トンネルバリア層)を磁性膜ではさんだTMR(トンネリングMR)ヘッドだ。絶縁障壁層は高抵抗だが、量子効果であるトンネル電流が流れる。このトンネル電流はメディアからの漏れ磁束により磁気的な散乱を受け、その違いによりMR効果を生むので、これを利用してメディアに記録された磁気情報を読み取る。  

TMRヘッド技術においても世界をリードするTDKでは、垂直記録方式のPMR素子と組み合わせたTMR-PMRヘッドを2005年に実用化。携帯音楽プレーヤをはじめとするモバイル機器用小型HDDなどに採用されている。TDKのコアテクノロジーとナノテクノロジーは、スピンエレクトロニクス技術の世界でもその真価を大いに発揮している。

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